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【プレスリリース】デジタルヘルス技術による日常生活下での睡眠習慣の安定化

2024年6月14日
発表のポイント
  • ウェアラブルデバイスやスマートフォンアプリ等によって構成されるデジタルヘルス介入システムを用いることで、就労者の睡眠習慣を安定化できることを示しました。
  • ウェアラブルデバイスから計測される客観的なデータに基づく睡眠フィードバックを対象者のスマートフォンアプリに通知するシステムを開発するとともに、マイクロランダム化という新奇な効果検証手法を用いることでその個人内の即時的な効果を明らかにしました。
  • 本研究で得られた知見は、デジタルヘルス技術に基づく日常生活下での健康行動の適応的実時間制御の実現に貢献する可能性があります。

デジタルヘルス介入システムの全体図

発表内容

東京大学大学院教育学研究科の山本義春教授、竹内皓紀特任研究員らによる研究グループは、ウェアラブルデバイス・スマートフォンアプリ等によって構成されるデジタルヘルス(注1)介入システムを用いることで、日常生活下での睡眠習慣の変容可能性を示しました。
現在、腕時計型の睡眠トラッカーなどのウェアラブルデバイスによって、眠りの長さやタイミングといった睡眠習慣の大まかな側面を簡易的かつ客観的に評価することができるようになりました。その一方で、計測されたデータをどのように睡眠改善に活用してゆくかという点に関しては、依然として十分な検証が進んでおらず、実践例が乏しいのが実状でした。本研究ではウェアラブルデバイスによる睡眠計測で得られた客観的なデータから睡眠フィードバック通知を自動生成し、対象者のアプリに自動送信するシステムを開発し、日常生活下での睡眠習慣の制御を試みました。
第一に、日本人就労者を対象に約2週間にわたりリストバンド型のセンサーを装着してもらい、日々の睡眠データの記録を行いました(図1)。同時に、専用スマートフォンアプリを用いて1日5回の頻度でそのときの心身症状の記録を求めました。取得された睡眠データに対して教師なし機械学習(注2)を用いることで、眠りの長さやタイミング、効率が日によって大きく変動する傾向、すなわち睡眠不安定性を呈する亜集団を同定しました。加えて、睡眠時間が不安定な人ほど、抑うつ気分や不安を高く、主観的睡眠の質を低く評価していることが明らかになりました。

図1: 睡眠計測調査概要図

ウェアラブルデバイスから得られた睡眠データから眠りの長さ・タイミング・効率(それぞれ、睡眠時間・睡眠中間点・睡眠効率)の個人内平均と個人内標準偏差を計算し、教師なし機械学習を適用した。その結果、睡眠不安定性を呈する亜集団(上図グループB)を同定した。

この結果を踏まえ、睡眠時間の安定化を目的としたデジタルヘルス睡眠介入研究を実施しました。上述の研究の参加者を対象に、再度2週間にわたる睡眠計測と心身症状の評価を行ってもらいました。当研究期間中、毎日昼の12時に昨晩の睡眠時間が個人ごとに自動推定され、参加者のスマートフォンアプリに「昨日の睡眠時間はあなたの平均的な睡眠時間より○○分程度長かったか/短かったです」といったフィードバック通知を一定の確率(50%)で送信しました(図2)。これによって、通知を受け取った場合と受け取っていない場合との間でその後の睡眠行動の変化を個人内で比較することを可能にしました。このような介入内容をランダム化させる手法はマイクロランダム化(注3)と呼ばれており、日常生活下での健康介入の即時的な効果を検証する手法として近年注目を集めています。実際に、通知を送った場合では受け取らなかった場合に比べて最大で1時間程 度睡眠時間が増加することが示されました。加えて、元来睡眠の乱れが顕著であった集団においては睡眠時間の安定性が改善したことも確認されました。
本研究で得られた知見は脆弱化した健康状態の検知に基づく日常生活下での実時間介入の重要性を示唆するものであり、健康行動介入におけるウェアラブル計測技術の利活用方略の一例となることが期待されます。

図2:睡眠介入調査概要

階層ベイズモデルに基づき、介入の提供による即時的な睡眠時間の変容効果を検証。図中アスタリスク (*) は95%信用区間に0を含まない推定値を示す。睡眠不安定性を呈する集団(図中グループB)では安定した睡眠習慣をもつ集団(グループA)に比して顕著な行動変容効果を示した。

発表者・研究者等情報

東京大学
大学院教育学研究科
竹内 皓紀 特任研究員
山本 義春 教授
大学院医学系研究科
内科学専攻 ストレス防御・心身医学分野
吉内 一浩 准教授
機能生物学専攻 システムズ薬理学教室
岸 哲史 特任講師
医学部
石澤 哲郎 非常勤講師
兼:セントラルメディカルサポート 代表産業医

大阪大学
データビリティフロンティア機構
中村 亨 特任教授

論文情報

雑誌名:Journal of Medical Internet Research
題 名:Just-in-time Adaptive Intervention for Stabilizing Sleep Hours of Japanese Workers: Microrandomized Trial
著者名:Hiroki Takeuchi, Tetsuro Ishizawa, Akifumi Kishi, Toru Nakamura, Kazuhiro Yoshiuchi, Yoshiharu Yamamoto* (*責任著者)
DOI: 10.2196/49669
URL: https://www.jmir.org/2024/1/e49669

研究助成

本研究は、文部科学省科研費「基盤研究A(課題番号:20H00569)」、国立研究開発法人科学技術振興機構ムーンショット型研究開発事業(課題番号:JPMJMS229B)、未来社会創造事業(課題番号:21473074)の支援により実施されました。

用語解説

(注1)デジタルヘルス
ウェアラブル計測や人工知能などのデジタル技術を活用することで健康増進の効率化を目指す分野。
(注2)教師なし機械学習
データに含まれる特徴量に基づいて、内在するパターンの検出やカテゴリ分けをする学習手法。
(注3)マイクロランダム化
介入期間中に提供される介入内容を個人内でランダムに割り当て、その後の行動変容効果を検証することで、介入の即時的な個人内効果を検証する手法。本研究の場合、介入を送る/送らないというパターンを毎日個人内でランダムに割り当て、その晩の睡眠行動の変化を調べた。

問合せ先

(研究内容については発表者にお問合せください)

東京大学大学院教育学研究科
教授 山本 義春(やまもと よしはる)
Tel:03-5841-3971 E-mail:yamamoto@p.u-tokyo.ac.jp

〈広報担当連絡先〉
東京大学大学院教育学研究科 庶務チーム

東京大学医学部附属病院 パブリック・リレーションセンター

東京大学大学院医学系研究科 総務チーム

大阪大学データビリティフロンティア機構 企画室

プレスリリース全文 (PDF: 604KB)



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