バリア・スタディーズ
人々は、社会生活をおくるにあたって様々な困難に遭遇する。中でも、障害者を含めて社会の中で周縁的な位置に置かれているマイノリティの人々にとって、建築物や社会制度や文化価値それ自体が、構造的なバリアを構成していることが多い。バリア研究は、こうした物理的・社会的・文化的バリアを抽出し、記述し、知識を集積することで、そうしたバリアを乗り越える方策を探るものである。本講義は、幅広い専門性を持つ教員による講義を通じて、バリアについて多角的に把握するための視点と道具を提供することを目的とする。
バリアフリー総論
歩道にひいてある黄色い点字ブロックのデコボコが不便だと感じたことはありませんか?満員の通勤電車に電動車いす利用者が乗って来たら少し迷惑だと感じますか?
近年、わたしたちの周りでは、「バリアフリー化」と呼ばれる環境整備が様々な場面で進められており、多くの場合、それは障害者にとって「やさしい」ことだと肯定的に受け止められています。ところが、ある障害者にとって「やさしい」環境を整備しようとしたところ、それが別の障害者や障害をもたない人たちにとって「やさしくない」環境を生み出してしまう、という事態も起きています。このように考えると、バリアフリーとは、一方で問題を解決しつつも、他方で別の問題を新たに生み出してしまうという二重性を内在した営みだと言うことができます。
本講義では、バリアフリー化によって生み出される新たな問題と、その問題をめぐって人びとの間に引き起こされる衝突・対立を「バリアフリー・コンフリクト」というキーワードで捉えます。本講義を通じて、多様化、複雑化が進む現代社会において生じている様々なコンフリクトと向き合い、解決していくための技法について一緒に考えていきましょう。
マイノリティの排除と包摂
本授業の目的は、社会における排除・包摂の過程や現象に着目し、様々な社会的マイノリティやマジョリティが置かれている位置と、それらの人々の関係性を分析するための理論や視点を獲得することにある。それにより、社会における異なる立場の人々の関係性について、意図的・無意図的に構築される社会の常識にとらわれることなく、多くの理論や視点を検討し、自らの研究課題に応じた解釈枠組みを選び取る力が得られるはずである。具体的には以下の3点を目標とする。
1)各社会的マイノリティの社会的位置に関し、どのような理論や視点があるのかについて概観できる。
2)各理論や視点を批判的に検討できる。
3)自らの経験や社会問題を、学習した理論・視点を用いて分析できる。
ダイバーシティと社会
近年「ダイバーシティ(多様性)」という言葉が、社会や組織の目指すべき目標と関連づけられて語られるようになっています。そこでは性別や年齢、性的指向や性自認、障害等にもとづく差異が、社会全体の「活力」や企業の「生産性」向上に直結するものであるかのように捉えられがちです。しかし、私たちの間にある差異は平板なものとしてではなく、権力関係を含んだものとして存在しています。それゆえ、さまざまな摩擦や衝突を生み出すものでもあります。
この授業の目的は、私たちの間の差異の編成のされ方やそこに働く権力関係に目を向けることで、ダイバーシティを社会的公正の観点から捉え直すことにあります。その際、フェミニズム研究やクィア研究、ディスアビリティ研究等の知見を参照することで、ダイバーシティについて学際的かつ多領域的に学んでいきます。