心理学的にみた学習意欲
以下、このコンテンツは市川伸一『学ぶ意欲の心理学』に依拠しています。
経営心理学と動機づけ理論
経済的動機 親和動機
達成動機
一昔前、19世紀に労働者は何のために働くかと聞かれたら、まず、経済的動機をあげたと思います。人は何で働くかといえば、要するに働いてお金を稼ぐためだという答えが当たり前のように返ってきたはずです。
ところが、だんだん生産力が上がってくると、給料のために働くということだけではなくなってきました。1930年代ころに強調されたのは親和動機というものです。ホーソン実験からわかってきたことは、生産高は物理的な環境条件だけに規定されているのはなく、むしろ職場における良好な人間関係というのが心理的な要因に大きく規定されるのではないかとういことが言われるようになりました。
その後、1950年代頃から生産高が社会全体でさらに上がってくると達成動機ということが言われるようになります。職場で何か意義のある仕事をしたい、自分がこういうことをやりたかったんだと思えるような仕事をやり遂げたい、仕事を通じて成長したいという気持ちが強くなってきます。
以上のように経済的動機、親和動機、達成動機という3つの考え方が、経営心理学の中では順に出てきました。
動機づけの階層性
これらの理論は決してどれか一つが正しいというものでもなければ、ただいろいろな動機があるということでもありません。 これらを統合する考え方の一つとしてマズローらが唱えた階層性理論というものがあります。この理論は、経営とか組織といったものを超えた、人間の欲求についての広いものになっています。 この階層性理論の面白いところは、いろいろな動機がある中で、底に一定の方向付けをしたことと、低次の欲求が満たされて初めて高次の欲求がでてくるという考え方を導入した点です。 |
マズローの欲求階層説 ![]() |
基礎心理学での古典的研究
外発的動機づけ 学習のためには何か物質的な報酬が不可欠である
内発的動機づけ 報酬のための手段ではなく、ある活動それ自体を自己目的的に求める
外発的動機づけという考え方が出てきたのは20世紀前半を風靡していた行動主義という理論からです。行動主義というのは人間と動物を連続的に捉え、動物実験を基にして人間の基本的学習の原理を明らかにすることができるという考え方です。
19世紀末から20世紀前半にかけて、外発的な動機づけが重視されてきましたが、それに対する批判がだんだん起こってきます。行動主義の考え方では、動物にしろ人間にしろ、元来怠け者の存在であるという立場を前提にします。このような説のことを動因低減説といいます。
ところが、感覚遮断の実験から明らかになったことは、人間というのは適度な刺激を常に与えられていないと、むしろ正常な働きができないということです。生後2,3ヶ月の赤ちゃんが一体どんな図形を好んで見るかということを調べた、ファンツという人の実験の結果によってもわかることは、人間は生まれながらにして複雑な刺激を好むという特性を持っているらしいということです。
それから、賞罰がないと学習は起きないということについても反論がでてきます。これは時代としては少し前で1920年代ですけれども、潜在学習という現象が動物実験で言われるようになります。この実験がそれまでの行動主義の考え方に対してインパクトがあったという点は2つあります。一つは行動主義というのは外に現れた行動の変化ということで学習を捉えようとしていたわけですけれども、出てくるまでの時間や誤り数だけ見ていると、学習していないように見える。しかし、実際にはねずみはなんらかの学習をしている。学習と外に現れた行動とは区別するべきではないかということが一つです。もう一つは、報酬がもらえなくても何らかの学習が起こりうるということです。動物というのは、一見無駄なこと、あるいは実際にほとんどの場合無駄になるかも知れないことでも学習します。高等な生物ほど、環境についての情報を収集したり、自分の能力を高めておいたりするのは、貯蓄とか保険のようなものではないでしょうか。余裕があるときに、いろいろな学習をしておくということが、そのときには無駄に見えても後から役に立つ可能性がある。それが知的好奇心や向上心の元になっているのではないでしょうか。
そして1960年代ころから、知的好奇心に代表されるような内発的動機づけに関する研究が心理学の中で激増します。
動機づけ研究の展開
その後、動機づけ研究は以下のような考え方をベースに展開していきます。
内発的動機づけの減退効果
随伴性の認知
再帰属訓練
一方、外発的動機づけと内発的動機づけを全く対立的に捉えるのではなく、連続体として捉える考え方が出てきます。これは1980年代半ば頃からですが、初めは外発的であったものがだんだん内発的に変わっていくということです。大きく分けて動機づけの段階として4つの段階があるといいます。
![]() 外的動機づけ ![]() 取り入れ的動機づけ ![]() 同一化的動機づけ ![]() 内発的動機づけ |
このような考え方に立つと、例え内発的動機づけを重視するという立場であっても、外発から入ることが必ずしも悪いことではないということになります。 内発的動機づけの減退効果によると、最初から内発的動機づけされている場合には外的な報酬はマイナスに寄与する可能性があるものの、最初から内発的動機づけされてない場合は入り口として外発から入っていくということも考えられるということです。 では、どうやったらその内在化が促進されるのだろうかというと、デシはそこに教育者と学習者の関係性というのが大きな役割を果たすといいました。 デシとライアンは人間の基本的な欲求として、自律性、有能さ、そして関係性という3つの欲求を挙げます。 |
動機づけの二要因モデル
そんな中、市川氏は学習の動機づけのモデルとして二要因モデルを提唱しています。これは、「学習の功利性」という次元と「学習の内容の重要性」という次元を掛け合わせたものです(図1)。
では従来の内発的動機づけと外発的動機づけというのはこのモデルからどうとらえられるのでしょうか。典型的な内発というのは充実志向で、典型的な外発というのは報酬志向になることを考えると、この対角線の軸が従来言われてきた内発と外発というものではないかと考えられます(図2:図1にカーソルを合わせる)。
このように次元的に動機づけの種類を分類していったときに大切なことは多重に支えられた動機というのを考えたほうがいいということです。それは、人がある行動をしてする目的などはそもそも変化していくものだし、多重の動機に支えられていると、ある動機が弱くなったときでも他の動機によって継続できるからです。
二要因モデルを越えて
以下は,学習の動機づけに対する考え方のうち,二要因モデルにあるいくつかの動機を複合したものや,あるいは超越したものを列挙しています。
試練・使命感
「なりたい自己」と「なれる自己」を広げる
RLA