2.海外の学校建築 〜ドイツを例に〜


1. 序

ここでは、海外におけるいくつかの学校建築事例を紹介する。ここで紹介されるものは、新規な試みをしているものであり、それが日本国内における従来の画一化された学校建築に比べて優れているだとか、劣っているということは一概に言うことはできないだろう。

そもそも、日本と諸外国においては、歴史や文化の違いを背景として、教育システムや教育のあり方が異なっている。イメージとして、日本の教育は、教師などの指導者から教えられたことをしっかりと吸収することに重点が置かれる一方で、海外、特に西欧世界においては、
自分の考えを表現していくという能力を養成することに主眼がある、というのが一般的であろう。

こうした違いが存在する中で、このような日本と海外の比較をすることは果たして有効なことなのであろうか?そう思われる方も少なくないだろう。たしかに、教育のあり方が違うのならば、その教育が行われる場である学校のあり方も異なるのが当然であろう。日本は日本なりの教育があるので、それに見合った学校建築を考えていればよいし、海外にまで手を広げる必要はないどころか、かえって混乱を引き起こすだけである、という意見も至極まっとうに聞こえるかもしれない。



私たちは、こうした点で海外の学校建築事例を取り上げるかどうか大いに悩んだ。しかし、最終的にこのように紹介しようと決めたのには大きく二つの理由がある


一つは、今、日本の教育が変わろうとしているとしている、ということだ。新学習指導要領が実施されてから早くも一年以上経ち、「わかる」ことに重点を置き過ぎた従来の日本型の教育から、総合学習の導入など「生きる力」を育てようとする新しい教育へと移行しつつある。それは、日本の教育においては全くの新規な取り組みであって、過去に例は無い。したがって、国内にだけ閉じていては前に進めないように思ったので、早くからこうした取り組みが行われている海外に眼を向けることで、今まで見えてこなかったものが見えてくるのではないか。

また、二つ目の理由としては、
情報化社会の進展が挙げられるだろう。ここ十数年で、情報文化は急速に進展し、学校教育においても情報教育の占めるウェイトは日に日に大きくなっている。わたしたちが小学生だったころには、パソコンを持っている家庭は珍しかったが、現在では一家に一台が当たり前になっており、学校にもパソコンが導入され、インターネットでいつでもどこでも、それこそ世界のどこでもつながることができるようになった。このインターネットの普及によって、子どもたちにとって、国境という感覚は薄れ、文化や歴史といったものが共有されやすくなっていくのではないだろうか。そうなると、教育のあり方もボーダーレス化が急速に進むことが大いに予測される。



諸外国においても、新しい学校施設づくりを実践している国は多く、OECDによって出版されている「Designs for Learning」に掲載されている国は、日本以外に、ベルギー、フィンランド、イギリス、韓国、ドイツ、フランス、スペイン、トルコ、メキシコ、ギリシア、オーストリア、スウェーデン、オーストラリア、カナダ、アイルランド、オランダ、イタリア、ポルトガル、スイス、アイスランドといった具合で、
世界各国で、新しい教育観に基づいた学校教育施設の必要性が認識されてきていることが窺えるだろう。

本来ならば、こうした国々の取り組みについて逐一詳細に触れながら紹介していければよいのだろうが、今回は、特にこの取り組みに力を入れている
ドイツに注目して、その教育制度や教育観に目を向けながら、秀逸な事例を紹介することにする。



2.ドイツの教育


 
ドイツの教育制度においては、3歳〜4歳の子どもを初歩段階、5歳〜8歳までの子どもは初等段階、9歳〜14歳は中等段階、15歳〜18歳は中等段階、にそれぞれ位置づけられる。そして、初歩段階では準備学校(Vorschule)学校幼稚(Schulkindergarten)
、初等段階では基礎学校(Gurundschule)、中等段階の生徒は、ギムナジウム・実科学校・ハウプトシューレまたは、その3種類の学校の統合である総合制学校のいずれかに通う。それぞれの段階における教育観を順に見ていく。

初歩段階では、一般的な学習能力と、それをさらに発達させるための能力をつけさせること、さまざまな学習条件の下で不足を補っていくこと、ならびに具体的な学習要求に対して準備していくことに目標が置かれる。準備学校では、
「進んでやること」を経験するべきで、子供たちは、ここで実質的な学校入学のための準備授業を受ける。学校幼稚園は、学習速度が遅い子どもを十分に学校に行ける程にまで導く役割を持っている。入学年齢の約5%から8%の生徒が特別指導を必要とするということが予測されている。教育・授業は、教師と社会教育学者によって行われる。




2−1 初等段階教育



初等段階では、
継続教育という視点から、中等教育への基礎を受けることを主眼とする。探究的学習、個人作業、共同作業、練習問題演習などが、あるレベルにおける実際に熟達すべき主題のための、学習方法・過程として取り扱われる。まず第一に必要とされるのは、からだを動かし制御すること、分析理解力、手工芸製作、音楽、言語学習など、人間交際に重きをおく活動計画である。そして、これらは読み・書き・算術とは別の、自然科学・社会科学の導入となるようなすべての教育の基本となるようなすべての教育の基本となるより明確な実習に遷移して行くべきものである。情報やコミュニケーションメディアり扱うことを習得すると、児童は早期に批判的意識に目ざめ、それにより、ある教育形態・内容について共同性の可能性を高めることなる。このような特徴を持つ初等教育段階のための建物のデザインは、地域特性や子どもたちの個性といったような教育の要求度に適するように多様性を持つべきであり、そうした多様性は、いかに生命力・活力を表現するかという問題の解決法になるべきなのである。



基礎学校の事例  ベルリン・ノイルケンの基礎学校




2−2 中等段階教育



中等教育は、
2段階で構成される。第T段階では、初等学校で養われた基礎をもとに、さらに知識を授け、能力を養うことになる。画一化された時間割によるごく基本的な教育は、どんな学校でもなされている。

しかし、必須の主な課目に必要な知識を得るのみならず、
生徒は個人の能力を伸ばすことが考慮されたいくつかの課目を選択することができる必要がある。このためには、同一集団における最大限の多様な指導の実施と、可能な限りの教授法をとり入れることが必要条件となる。将来の中等学校の建築の構成は、おそらく、このような新しい目的に対応する教育法によって決定されるだろう。

しかしながら、妥当とされた建築プログラムにしたがって計画された学校は、依然として多くの固定化した独立室を有しており、これらは将来の要求に合致しなくなるであろう。従って設計者は、
予想され得る将来の変化を見通して、計画・設計をする必要があるのである。

中等教育の第U段階というのは、”高等教育課程”(Kollegstufe)であり、現在のギムナジウムの上級に相当する。これは、卒業試験Uで終了し、大学(Hochschule)入学の資格を与えるものである。

この教育段階のための学校の建築計画は、
最大限のフレキシビリティをもったものでなければならない。というのは、多様な教授法や、大人数のクラス活動から個別学習にいたるまで幅広い行為が、多目的に使いうる空間と結び合わせられることにより、そこで実施されるからである。



ギムナジウムの事例@ ベルクギムナジウム(ハインハイム、バーデンヴュルテンブルク州)



ギムナジウムの事例A ブラックヴューデのギムナジウム


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