【プレスリリース】日本の大学院生の進路志向はどのように形成されるのか ―キャリア価値観と研究自己効力感がアカデミックおよび多様なキャリア選択に与える影響―

発表のポイント

  • 日本の国立大学の大学院生1,163名の調査から、キャリア価値観は「安定・待遇」「知的関心・専門性」「評価・名声」の3次元に整理された。
  • 「安定・待遇」志向はアカデミック職や起業志向と負の関連を示す一方、企業の研究職志向とは正の関連を示した。
  • 「知的関心・専門性」志向は大学教員や公的研究機関などの研究職志向のみならず、起業志向との関連も一部で見られた。
  • 研究自己効力感は、アカデミック志向だけでなく、ベンチャー企業への就職志向とも正の関連を持つことが明らかになった。

発表概要

 東京大学大学院教育学研究科の両角亜希子教授、鎌倉女子大学の福井文威教授、関東学院大学の髙木航平准教授、東京大学大学院教育学研究科の森卓也教育学研究員の研究により、日本の国立大学の大学院生がどのような価値観や意識をもとに進路を選択しているのかが明らかになりました。
 本研究では、日本の国立大学の修士課程および博士課程に在籍する大学院生1,163名を対象にアンケート調査を実施し、キャリア志向に影響を与える要因として「キャリア価値観」と「研究自己効力感(research self-efficacy)」に着目して分析を行いました。
 分析の結果、大学院生のキャリア価値観は主に以下の3つの次元に分類されました。すなわち、「安定・待遇志向(Stability & Benefits)」、「知的関心・専門性志向Intellectual/Specialization)」、「評価・名声志向(Recognition & Prestige)」です。
 ロジスティック回帰分析の結果、「安定・待遇志向」はアカデミック職および起業志向とは負の関連を示す一方、企業の研究職志向とは正の関連を示しました。「知的関心・専門性志向」は大学教員や公的研究機関などの研究職志向のみならず、起業志向を強く促進することが確認されました。また、「評価・名声志向」は全体としての影響は限定的であるものの、起業志向と正の関連が見られました。
 さらに、研究自己効力感は、アカデミックキャリアだけでなく、ベンチャー企業への就職といった新たなキャリア志向とも正の関連を持つことが示されました。
これらの結果は、日本の大学院生のキャリア形成が従来のアカデミック志向にとどまらず、多様化していることを示唆しています。特に、研究能力に対する自己認識が、新たなキャリア選択とも結びついている点は、大学院教育やキャリア支援のあり方を再検討する上で重要な知見です。

研究の背景

 近年、博士人材のキャリアの多様化が進む中で、大学院生がどのように進路を選択しているのかを明らかにすることは、高等教育政策および大学院教育の設計において重要な課題となっています。特に日本では、アカデミックポストの限界や産業界との接続の課題が指摘されており、大学院生のキャリア志向の実態を実証的に把握する必要があります。

研究の方法

 本研究では、日本の国立大学に在籍する大学院生1,163名を対象に質問紙調査を実施し、キャリア価値観および研究自己効力感と進路志向との関連を分析しました。キャリア価値観については因子分析により構造を抽出し、その上でロジスティック回帰分析を用いて、各要因が異なるキャリア志向に与える影響を検証しました。
※本研究で用いた調査の概要については、以下をご参照ください。
https://ump.p.u-tokyo.ac.jp/crump/cat77/cat82/post-60.html

研究の意義・今後の展望

 本研究は、日本の大学院生のキャリア志向を、価値観と自己効力感という心理的要因から体系的に分析した点に特徴があります。特に、研究自己効力感がアカデミック志向のみならず起業志向とも関連することを示した点は、大学院教育におけるキャリア支援の新たな方向性を示唆しています。
 今後は、分野差や国際比較を含めた分析を進めることで、より精緻なキャリア支援のあり方を検討していくことが期待されます。

発表者・研究者等情報

両角亜希子(東京大学大学院教育学研究科 教授)
福井文威(鎌倉女子大学学術研究所 教授)
髙木航平(関東学院大学 高等教育研究・開発センター 准教授)
森卓也(東京大学大学院教育学研究科 教育学研究員)

論文情報

雑誌名:Higher Education Quarterly
題目名:Diversifying Non-Academic Careers and Career Aspirations among Graduate Students in Japan: The Role of Career Values and Research Self-Efficacy.
著者名:Akiko Morozumi, Fumitake Fukui, Kohei Takagi, Takuya Mori
DOI: 10.1111/hequ.70137

研究助成

科学研究費補助金・挑戦的研究(萌芽)(課題番号:23K17611)の支援により実施されました

問合せ先

<研究内容について>

東京大学大学院教育学研究科
教授 両角亜希子
E-mail: morozumi[at]p.u-tokyo.ac.jp
※[at]を@に変換してください

<機関窓口>

東京大学大学院教育学研究科 広報担当
Tel:03-5841-3903 E-mail:edushomu.p[at]gs.mail.u-tokyo.ac.jp
※[at]を@に変換してください