教えて考えさせる授業 資 料

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「教えて考えさせる授業」についての関連資料です。論文、講演記録、配布資料、などを収録します。


■玉野市での講演における事前質問と回答

 2010年8月20日、岡山県玉野市において、「学力・人間力育成事業」の研究助成を
受けている市立玉中学校の主催で、校区内小学校の先生方と合同の研修会が開かれ
ました。事前に寄せられた質問に対して、当日配布した回答を収録します。(表現上の修
正を若干行いました。) 「教える」「考えさせる」とは何をさすのかについて、重要な質疑
が含まれています。

 
 市川です。講演に向けて多くのご質問をお寄せいただき、ありがとうございました。当日の講演の中で、すべてをとりあげる時間がなさそうですので、簡単な回答をつくりました。当日、いくつかのテーマについては、さらに掘り下げたいと思います。

問1:「考えさせる」活動の場面ではグループやペアでの活動がメインとなるのでしょうか。また,個人でやらせた場合の成果はどうなのでしょうか。

回答:私は協同の活動を取り入れることが多いですが、必須というわけではありません。また、個人で考える時間をとってからグループ討論にもっていくことも多々あります。説明活動などは、ペアやグループのほうが自然に行えます。協同学習のメリットをお考えの上、先生の判断でお決めください。

問2:場合によっては「教える→考えさせる」よりも,「考えさせる→教える」の方がうまく機能する場合もあると思うが,そのあたりは臨機応変に対応しても良いのでしょうか。

回答:「教えて考えさせる授業」は、習得の授業のスタンダードな設計原理として推奨しているものです。スタンダードということはあくまでも原則論ですから、そうでない場合も当然ありえます。なお、探究の授業では、むしろ、「考えさせてから教える」「考えさせながら教える」というのが普通だと思われます。

問3:各教科の具体的な活動例があれば教えていただきたい。

回答:書物や教育雑誌、他校の研究紀要などをご参照ください。現在、インターネットで指導案などの所在をリストにすることをすすめています。

問4:「教えて考えさせる授業」を実施するにあたって教員が気をつけなければならないことは何ですか。

回答:たくさんありますが、「教えて考えさせる授業」の趣旨(目的、ねらい、4段階の意義、適用範囲)を誤解しないことが第Tです。講演内容、あるいは書物をご参照ください。

問5:「教える」ということと「考えさせる」の境界線を引く基準となるものは何ですか。

回答:教師から情報(説明、演示など)を与えることが「教える」、学習者にそれを用いて何らかの処理(理解状態の表現や応用的課題への適用など)を求めるのが「考えさせる」ということになります。

問6:教える部分と考えさせる部分が具体的にわかるとうれしいです。教科や内容、それに教える側の意図や考えによって「教える部分」が変わってくると思う。

回答:具体例は、書物などにたくさん出ていますし、当日の講演でも示しますが、それは固定したものではなく、おっしゃるように、教育内容、教師の意図、子どもの実態などによって変わってきます。「何を扱うときには、何を教え、何を考えさせる」ということがマニュアル的に決まっているわけではありません。これこそ、先生方にもっとも考えていただきたいところです。

問7:「教えて考えさせる授業」が本当の意味で理解されなかったり,誤解されるとすれば,それは「教える」「考えさせる」という言葉の解釈が曖昧だからだと思います。そこで市川先生の考える基本的な「教える」「考えさせる」の定義をお聞きしたいと思います。

回答:問5の回答で示したとおりです。先生が言葉や教材や演示を通して情報を与えることを「教える」というのは、それほど無理のない定義だと思われます。それに対して、「考えさせる」というのは、ふつう「問題を解く」に代表される課題解決だと思われていますが、私の場合、「理解確認」として子どもに説明させることや、「自己評価」としてわかったこと、わからないことを具体的に記述することまではいっています。考えなければできない活動だから入れているわけですが、これは一般的な通念よりも広いもので、かつ、従来の授業で十分とりあげられていない点だと考えています。

問8:私は「教える」とは『教師主導で知識を与える』と理解していますが,「考えさせる」についてはよくわかりません。今までいくつか見た授業では「考えさせる」を『他人に説明する方法を工夫し,うまく伝えられるようにすること』ととらえていましたが,それでいいのでしょうか。これだと「教えられたこと」が自分の身についているかを確認し理解が深まっていたら「考えた」ということになり,教えられたことを理解する以上のことに発展しないと思うのですが,どう考えたらよいでしょうか。

回答:先生のご覧になったのが「教えられたことをわかりやすく他人に説明する」という授業だったとすれば、「理解確認」の部分だけということになります。「教えて考えさせる授業」の「考えさせる」では、理解確認、理解深化、自己評価の3ステップが含まれています。理解深化では、教えられたことをもとに、さらに理解を深める課題(応用や発展の課題も含まれます)にとりくみます。これは、教わったことの説明ではなく、反復習熟のドリルでもありません。「なるほど、こういうことだったのか」「なるほど、こういうふうに使えるのか」という「なるほど」の出る課題であり、それを通じて、本時の目標である知識や技能の習得をより深いレベルまでめざすわけです。

問9:「考えさせる」は身につけた力を使って自分で問題を解くということではないのかと思っているのですがそれでよいでしょうか。

回答:上記の問5〜8の回答をごらんください。問題を解くといっても、教師から教わったことを聞いていればできるくらいの問題は「理解確認課題」です。学習者にもアイデアを出すことを求め、深い理解に至らせるためのものなら「理解深化課題」と私はとらえています。

問10:そもそも習得と探究の2つに分けて考えることが,なかなか腑に落ちません。この2つに分けてしまうと,「活用」する場をうまく位置づけられない気がしています。基礎を「教わって」それを「活用」して(あてはめるとか結びつけるとか)いわゆる探究活動ではない問題(こちらから与える少し高度な応用問題など)に取り組むとき,生徒は「考える」のではないかと思うのですが。

回答:「活用」の役割を考えるには、むしろ習得と探究の枠組みで考えたほうが理解しやすいと私は考えています。習得の授業とは、「教師のねらいに沿って、既存の知識や技能を身につけさせるもの」、探究の授業とは、「児童生徒が自らの興味関心に応じて課題を設定してそれを追究する学習(典型的には、総合の時間)」です。学校の教育課程をこの枠組みで考えると、活用は次の3箇所で起こると考えられます。

 @ 習得の中での活用:習得の中で、学んだことをより高次の習得に活かす。(これがご
  質問の中にある「こちらから与える少し高度な応用問題にとりくませる」になり、「教
  えて考えさせる授業」でいう「理解深化」です。)
 A 習得から探究への活用:習得として身に付けた知識・技能を、探究活動の中で活かす
  (私は、これを「習得と探究のリンク」と呼んでいました。
 B 日常生活や将来への活用:習得、探究という学校教育の教育課程の中で得たことを、
  日常生活(他の教科の学習や地域活動も含めてよいと思います)や、将来の仕事・生活
  の中で活かす。

 つまり、習得、活用という枠組みがあって、活用はその中のさまざまなところで起こることととらえるほうが理解しやすいというのが私の考え方です。ただし、活用の意味や習得、探究との関係は、中教審答申や文部科学省もそれほど明確に示しているわけではありません。(経緯としては、私が習得と探究を提案し、その後、別の委員が私とはやや異なる意味で「活用」を入れる提案をして、3つが併記されるようになりました。その時点で、それぞれの意味が文部省用語として十分確定しないまま今に至っています。)

 最近、「習得型」「活用型」「探究型」と3つの型に分けて考える授業論もありますが、私はこれにはあまり賛成できません(文部科学省も3つの型があるとは明言していないと思います)。3つの型に分けて、活用型という独立の型があると考えると、ますます分類が苦しくなります。活用は「○○を○○に活用する」というものなので、2つのものの結びつけなしには考えられないものです。

問11:生徒同士で話し合いをさせるとすると,その時間を生みだすための良い方法があれば教えていただきたい。

回答:私の経験上、小学校の先生よりも中学・高校の先生が「教えることが多いので、話し合いの時間などとれない」という反応が多いようです。逆に、「話し合い」をしないとすると、教師の説明と問題演習ですすめられるわけですが、「授業がわからないという生徒が多い」「教えた(授業で扱った)のに定着していない」という生徒が多いので、理解確認や理解深化で協同学習の場面を入れる(必須ではありませんが)のが私はよいと思っています。

 そのための時間を生み出すには、5分でも10分でも予習してくることを促し、「教師からの説明」でポイントを絞り時間短縮をはかることです。生徒は、予習によって学習事項の概略がわかり、疑問点などをもって授業に臨めば、教師が説明した時の吸収の速度がずっと大きく異なります。教科書と同じ説明をたんたんと板書で繰り返して、生徒がそれを写している場面を中学・高校でよく見かけますが、その内容を生徒が予習で読んできて、授業での教師の説明は「とくに難しいところ」に焦点化し、生徒にもグループ内で相互に説明させるほうが、はるかに理解はすすみますし、時間も短縮されます。教師に求められるのは、生徒の理解困難な点を見定めて、わかりやすい説明を工夫することと、理解を促進するような適切な課題(とくに理解深化課題)に取り組ませることではないかと考えます。

問12:「オームの法則」の授業は,自分の考えているイメージでは,オームの法則(公式)を説明する。→回路を作って理論値になるか予想したうえで実験(確認)する→直列・並列などの深化課題に取り組む。というのが教えて考えさせる授業なのですが,このイメージであっているでしょうか。

回答:オームの法則を扱うにも、目標をどこに設定するか、生徒がどこで理解の困難を感じるかによりますので、一概には言えません。上記のイメージは、その一つとして妥当なものだと思います。(ちなみに、「教えずに考えさせる授業」だと、教科書を閉じて、実験を行いながらオームの法則を自力発見することをねらうでしょう。これだと、オームの法則を知っている生徒には、興味がわきません。また、クラス全体がオームの法則にたどり着いたとしても、一人ひとりの理解状態はバラバラで、高いレベルの課題も扱う時間がとれません。)

 オームの法則から、合成抵抗(直列の場合、並列の場合)の公式を証明するという理解深化課題なら、おそらくもともとできる生徒はおらず(高校の教科書に公式は出ていても、証明は普通出ていないはずです)、理論的に考察して、実験で確かめるという非常にエキサイティングな授業になるでしょう(ヒントが必要になるかもしれませんが)。実践されることを期待しております。(ちなみに、この「証明」は、拙著『勉強法が変わる本―心理学からのアドバイス―』、岩波ジュニア新書)のコラム記事に出ています。)


 


■大垣市での講演における事前質問と回答

 2010年8月24日、岐阜県大垣市において、市教育委員会主催で、市内の小学校・中学校の教員約400名を対象に研修会が開かれました。事前に寄せられた質問に対して、当日配布した回答を収録します。(表現上の修正を若干行いました。) 予習の意義と活かし方、理解確認の方法などについての質疑が含まれています。

 
問1:子どもが付箋を貼ったあと、どのように活用するのか。


回答:付箋は学習者にとっては、自分のわからないところを明確化する効果、教師にとっては子どもがどこがわからないと思っているのかを把握する効果があります。予習段階の付箋は、授業のはじめに教師がクラス全体の様子を見てまわり、教師が説明するときに重点を置いたり注意を促したりします。理解確認段階での付箋は、机間指導のときの目安にします。(個別指導したり、場合によっては全体での説明をていねいにし直すとよいと思われます。)また、グループ学習の中で、付箋をはった箇所を、子どもどうしで教えあったり、相談しあうこともあります。

問2:分からないことを次の授業でどう生かすのか。

回答:多くの児童・生徒が分かっていない場合、クラス全体に、よりていねいな説明をし直し、理解確認をします。少数の場合は、個別対応をします。

問3:予習や復習ができない場合、定着が遅い子など差がつき、スタートの足場がちがうのでは。

回答:いきなり授業で教師が説明したり課題を出したりしても、スタートの足場が違うこと(先取り学習をしている子もいる)、理解が遅い子もいることからこそ、予習をすすめるのです。ただし、予習範囲を授業で省略するのではなく、予習しただけでは生分かりであることを前提として、教師が授業内でていねいに説明し、理解確認も入れます。実際、学力の低い子どもたちが、「授業がわかるようになった」「手があげられるようになった」と予習の有効性を書いてきます。

 なお、予習内容の理解状態はさまざまでしょうし、スタートが完全にそろうわけではありません。しかし、予習をしないよりは、授業内容がわかる子は増えるでしょう。そういう意味では、スタートラインをそろえるというより、それぞれのスタートラインを少しでも前にずらすということです。

 もちろん、予習を促してもやってこずに、授業がわからないという子もいるでしょう。しかし、それが少数であれば個別対応もできます。予習を促さないで、授業がわからない子が多数派になってしまうと協同学習や個別対応もできず、結局全体の学力水準がますます低くなり、理解の速い子や塾などで先取り学習している子との学力差がいっそう大きくなります。

 念のためですが、予習は「教えて考えさせる授業」に必須のものではありません。しかし、学力や先行知識の差が大きいときや、学年がすすんで難しい内容を扱うときほど、予習を入れることが有効です。復習については、「教えて考えさせる授業」に限らず、多くの先生が促すはずです。これも、やらない子がいれば学力差がついてしまいますが、少しでも多くの子が定着することをねらっているものです。

問4:国語の読みとりの授業では、「教えて考えさせる授業」において、単位時間のめあては、どうなるのか。

回答:これまでの授業実践では、読み方のスキルの獲得を目標とし、具体的な教材文に適用して読みを深めるというものがあります。もちろん、これには、どのような読解スキルが必要でそれをどう教えるかという研究が求められます。研究校の指導案や教育雑誌などをご参照ください。

問5:子どもにとって何が大切なのか(子どもにつけさせたい思考力など)という点で、自力発見(規則性・公式など)するより、すでに分かっているきまりを知って活用する力の方が、将来的に有効と考えてよいのか。

回答:二者択一ではなく、両方必要です。「教えて考えさせる授業」は、他者からの情報(教科書や教師の説明)を理解して取り入れる受容学習と、理解深化課題を通して習ったことの意味を深めたり活用・応用したりする問題解決学習とによって「習得」がなされるという授業設計原理です。さらに、教育論全体としては、こうして身に付けた知識・技能を活かして、自らの興味関心に基づいて設定した課題を「探究」することを想定しています。

 自力発見の場面は、理解深化でも探究でも設定されますので、全体としては問題解決を非常に重視したものです。「教えて考えさせる授業」が批判しているのは、教科書をあければすぐに出ているような説明や公式(知っている子もいる一方、知らない子には自力発見は難しい)を、学校では未習事項だからといって、形の上で「自力発見」させようとする授業です。その部分は、予習や教師からの説明で扱い、理解確認も行ったうえで、全員でより高い発見学習にとりくむことをねらうものです。

問6:「教えて考えさせる授業」と家庭学習とのリンクの仕方は。

回答:予習の意義(難しいことを学ぶ時は生分かり状態を経ることが大切なこと、概略を知り疑問点を明確にして授業に臨むことが大切なこと)を伝え、具体的な方法(たとえば、5分でも10分でも教科書を読んで、わからない場所に付箋をはっておくとよいこと)を伝えます。疑問点を明らかにすると、授業中に教師や他の子どもがそれを説明してくれるので、自分のためにもなるという感覚をもたせることが大切です。自分の役に立つという感覚がないと、形骸的な予習になってしまうからです。

 復習については、通常の授業と同じく、定着を促すドリルを出すこともあります。しかし、意味理解を重視するという趣旨からすれば、もう一度自分で説明できるかどうかをチェックしたり、わからなかった点を質問カードに書いてくるというようなことも考えられます。

 なお、「教えて考えさせる授業」では、学習スキルに関することを教える(たとえば、計算上の工夫とか、問題解決での図表の利用など)こともあります。これは、家庭学習のしかたそのものの変容を促すものです。

問7:理解確認の仕方・あり方(ペアやグループで活動すれば、理解確認となるのか。
   本当に全員ができているのか、分かっているのかの把握は。
   理解確認の時のペアやグループ交流のあり方は。

回答:まとめて回答します。ペアやグループで説明活動や教えあい・学びあい活動を行い、それを教師がモニターすることが理解確認として有効ですが、それだけではありません。たとえば、

  ・教師の説明の途中でも、「この答は何だと思うか」「これができた人は?」と言って
   挙手させることによって、全体の分布を把握すること。
  ・答を言った発言者には、考えた理由を求めること。これも、「今の理由に賛成の人は
   ?」と言って全体の分布を把握すること。
  ・理解確認や理解深化で問題を解かせ、代表生徒や教師が説明したあとに、「この問題
   がまだよくわからない人はノート(またはワークシート)に『?』を書いておきまし
   ょう」と言って、どこがわからないかの痕跡を残させること。
  ・自己評価(あるいは、宿題として質問カード)に、わかったことと、まだよくわから
   ないことを書いてもらうこと
  ・ノートやワークシートを集めて、その書き込みなどをチェックすること

など、いろいろ考えられます。実際には、「自力発見」や「練り上げ」の授業でも、手を挙げた子どもだけをあてて、「いいでーす」と口々に声を出すだけで進行する授業が少なくありません。「教えて考えさせる授業」かどうかにかかわらず、子どもが表現してそれを教師が見届ける機会を増やしていただきたいと思います。また、その授業内ですべての子に理解させようと無理をするのではなく、「ここがわからない」という痕跡を残しておいてもらって、次の授業や個別対応につなぐという姿勢が重要だと考えています。

 なお、理解確認の課題は、教師が説明したことが伝わったかどうかの確認ですから、比較的しきいの低いもの(同じ内容の説明や、数値を変えただけの類題など)でよいのです。簡単な課題はペアで発言機会を多くし、少し難しい場合は3〜4人の小グループの中で、わからない子がわかった子から教えてもらえるようにするのがよいと思われます。教師は、答を相互に確認することや、答が一致していないときに相談することを促す必要があります。

 

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