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『教育と仕事に関する全国調査』

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『教育と仕事に関する全国調査』のページにお越しいただき、まことにありがとうございます。以下では、この調査についての概要をご説明いたします。
この調査は公的資金のみによる純粋な学術調査であり、思想的・政治的・宗教的団体とのつながりは一切ありません。営利団体からの支援・協力も一切受けておりません。

●調査の目的
●資金・組織
●調査の概要
●調査結果速報
●研究成果発表【New!】

●調査の目的

現在の日本社会では,雇用環境の悪化,少子高齢化などにより,教育や子育て,働き方,ライフスタイルは大きく変化しています。それにともない、価値観も多様化し,教育や子育てに対してもさまざまな考え方や意見が聞かれるようになり,人びとの間での格差にも注目が集まるようになってきました。
教育においても、また仕事や経済状況においても、格差の議論がなされるようになっていますが、これまでは教育をテーマとする調査では仕事や経済状況については十分には調べることができず、逆に仕事や経済状況をテーマとする調査では教育のことについては十分に調べられていませんでした。その結果、教育と仕事、教育と経済状況の関係は、どのデータをみても実態を正確に把握するには不十分な情報しかない状況になっています。
こうした状況を受け,本調査では教育体験と職業および社会格差との関連を両面から詳しく調べることで、従来のデータではうまく解明できなかった教育と社会の関係を学術的に測定・分析しようとしています。また、その分析結果を生かして今後の教育政策に有効な提言を行うことができると考えています。

●資金・組織

東京大学大学院教育学研究科教授・中村高康が,文部科学省所管の独立行政法人 日本学術振興会の科学研究費による公的助成を受け(科学研究費(基盤研究A):課題番号23243083, http://kaken.nii.ac.jp/d/p/23243083.ja.html(国立情報学研究所『科研費データベース』より)),全国の専門研究者からなる「2013年教育・社会階層・社会移動調査研究会」を組織し中村研究室を事務局として調査を行っています。研究会のメンバーは以下の通りです。

【教育・社会階層・社会移動調査研究会メンバー(H26.5.30現在、◎は研究代表、○印は幹事)

◎中村高康(東京大学教授)      ・多喜弘文(法政大学講師)
○平澤和司(北海道大学教授)    ・須藤康介(明星大学助教)
○荒牧草平(九州大学准教授)    ・日下田岳史(大正大学助教)
○中澤 渉(大阪大学准教授)     ・小川和孝(東京大学特任研究員)
・吉田 崇(静岡大学准教授)     ・野田鈴子(東京大学大学院修士課程2年)
・古田和久(新潟大学准教授)    ・元濱奈穂子(東京大学大学院修士課程2年)
・藤原 翔(東京大学准教授)     ・胡中孟徳(東京大学大学院修士課程1年)

 

●調査の概要

【調査対象】

この調査は、全国にお住まいの満30歳~64歳の方、計4,800名に依頼しております。全体を代表するように、無作為抽出法というくじ引きのような方法で調査地点を定め、その地点の住民基本台帳を閲覧し※、一定間隔に抽出して(系統抽出法と呼ばれます)調査対象者を選ばせていただきました。

※大学の実施する学術調査は、対象者抽出に関し、住民基本台帳の閲覧が許されております。今回の調査では、調査委託機関である㈱日本リサーチセンターが、定められた手続きを経て、市区町村の許可を受け、閲覧させていただき、情報を厳重に管理しております。

【調査方法】

調査は、郵送留置法(郵送で調査票をお送りし、のちに調査員が受け取りにうかがう方法)で実施しました。
なお、最近転居をされた方など、一部の方には郵送法で実施しました。

【調査時期】

平成25年10月~12月

【調査票】

ESSM調査票(pdf)

●調査結果速報

1 回収状況

今回の調査は、全国の満30歳~64歳の男女のなかから無作為に抽出した4800名を対象に行われました。調査票の回収状況は以下の通りです(有効回収率は計画サンプル数(調査対象総数)を分母としています)。

調査対象総数 4800

有効回収数 2893

有効回収率 60.3%

学術的な全国調査としては、とても良好な回収状況でしたので、信頼性の高いデータになりました。ご協力ありがとうございました。


2 対象者の基本的な特徴

図1 性別

 

図2 年齢

 

図3 地域

 

3 調査データの分析結果(一部抜粋)

3.1 教育体験

図4 小学生のとき、親(保護者)と一緒に運動をした(問18ア)

 

図5 小学生のとき、親(保護者)と一緒に美術館や博物館に行った(問18イ)

若い世代ほど、小学生のときに親(保護者)と一緒に運動をしたり、美術館や博物館に行ったりすることがあったと回答しています。特に運動については、「ひんぱんにあった」「ときどきあった」と回答した割合が、60代では14.3%にとどまるのに対して30代では46.8%にものぼっています。時代とともに、親子関係が変わってきているのかもしれません。


図6 中学生のとき、学校に行くのがいやだと思うことがよくあった(問24ク)

中学生のとき、学校に行くのがいやだと思うことがよくあったかどうかをたずねると、どの年代も「あてはまらない」という回答が一番多くなっています。一方で、世代が若くなるにつれて「あてはまる」「どちらかといえばあてはまる」という回答が増加しています。生徒と学校との関係が変化してきている可能性があります。


図7 小学校6年生・中学校3年生のとき、塾に通ったことがある(問19・問28)

通塾経験があると回答した人の割合は、世代が若くなるにつれて増加しています。60代で通塾していた人は、小学校6年生で12.9%、中学校3年生で15.2%だったのに対して、30代では、小学校6年生でも37.1%、中学校3年生では56.5%にものぼります。塾というシステムの普及が進んだこと、学校教育だけでは不十分だと考えられるようになっていった可能性、などがうかがえます。


3.2 教育に対する意識

図8 日本は学歴がものをいう社会だ(問49オ)

30代では約7割の人が、それ以外の世代では約8割の人が「そう思う」「どちらかといえばそう思う」と回答しています。日本社会において学歴が重要だという認識は、30代において少し低下しているとはいえ、強固に存在していることがわかります。

 

図9 公立学校は信頼できる(問62イ)

「そう思う」「どちらかといえばそう思う」と回答した人の割合は、60代では47.9%ですが、世代が若くなるにつれ低下し、30代では38.7%となっています。それほど大きな差ではないものの、公立学校への信頼が少しずつ揺らいできているのかもしれません。

 

3.3 仕事に対する意識

図10 仕事を通じて職業能力を高める機会がある(問10エ)

30代では71.2%の人が、40代と50代では約65%の人が、「かなりあてはまる」「ある程度あてはまる」と回答しています。一方で、「あまりあてはまらない」「あてはまらない」と回答した人も、2割から3割程度存在しています。仕事を通じた職業能力の形成機会に差があることがみてとれます。

 

図11 現在の職場で「能力のある人」と思える人(問11)

※分析対象は現在仕事をしている人のみ

現在の職場で「能力のある人」と思えるのはどんな人かをたずねた項目のなかから、「うまくコミュニケーションできる」と「リーダーシップがある」に着目してみると、世代によって差があることがわかります。近年重視されているコミュニケーション能力については、30代では76.5%が選択しているのに対し、60代では63.4%にとどまります。リーダーシップについても同様の傾向がみてとれます。世代によって、どういった能力をどの程度重視するのかには違いがありそうです。

 

3.4 社会に対する意識

図12 大学教育を受ける機会は貧富の差に関係なく平等に与えられている(問62エ)

大学教育を受ける機会が貧富の差に関係なく平等だと思うかどうかをたずねたところ、どの世代においても、6割強の人が「どちらかといえばそう思わない」「そう思わない」と回答しました。教育の機会が拡大しても、それを享受できるかどうかには依然として経済的な格差が大きく影響していると、多くの人が感じていることがわかります。

 

4 より詳細な集計・分析結果の公表予定について

 

以上の分析結果はあくまで速報値であり、最終的な確定値とは若干の相違が生じる可能性がある点、ご留意ください。

当研究会では、今後さらに分析を進め、平成27年3月末にはより専門的な分析と全項目の集計結果を収録した報告書を刊行する予定です。これらについても可能な限り当ホームページに掲載していく予定です。

 

〔資料作成:野田鈴子・中村高康〕


●研究成果発表【New!】

【著書等】

・中村高康・平沢和司・荒牧草平・中澤渉編(2018)『教育と社会階層―ESSM全国調査からみた学歴・学校・格差』東京大学出版会(近刊)。

・中村高康(2018)『暴走する能力主義―教育と現代社会の病理』ちくま新書(近刊)。

・中村高康研究代表(2016)『全国無作為抽出調査による『教育体験と社会階層の関連性』に関する実証的研究【別冊】コードブック・基礎集計表』(科学研究費報告書)。

・中村高康研究代表(2015)『全国無作為抽出調査による『教育体験と社会階層の関連性』に関する実証的研究』(科学研究費報告書)。

【論文等】

・平沢和司(2018)「世帯所得と子どもの学歴―前向き分析と後向き分析の比較―」 2015年SSM調査報告書 教育Ⅱ pp.1-20.

・須藤康介(2017)「小中高の学業成績と学校的勉強への価値づけ : 認知的不協和による価値観形成」『明星大学教育学部研究紀要』7,pp.63 – 73.

・中澤渉(2015)「日本人の意識から教育費の問題を考える」『経済セミナー』682、pp.45-50

【学会等発表】

・古田和久「職業生活における学校教育の意義」(日本教育社会学会第67回大会(駒澤大学) 2015年9月9日).

・NAKAZAWA, Wataru. (2015.8.) “Decreasing Population, Educational Expansion, and Inequality of Opportunity: Japan as a Low-Fertility Society,” International Sociological Association Research Committee 28, Summer Meeting 2 015, University of Pennsylvania.

・中村高康・平沢和司「教育体験と社会階層 -ESSMデータ2013を用いて-」(日本教育社会学会第66回大会(愛媛大学・松山大学) 2014年9月13日発表)

・小川和孝「就学前教育と出身階層・教育達成の関連-ESSMデータ2013を用いて-」(日本教育社会学会第66回大会(愛媛大学・松山大学) 2014年9月13日発表)

・古田和久「教育、職業と学校教育に対する評価-ESSMデータ2013を用いて-」(日本教育社会学会第66回大会(愛媛大学・松山大学) 2014年9月13日発表)

・多喜弘文「学歴としての専門学校に関する計量的研究-ESSMデータ2013を用いて-」(日本教育社会学会第66回大会(愛媛大学・松山大学) 2014年9月13日発表)

・中澤渉「教育意識と社会階層-ESSMデータ2013を用いた潜在クラス多項ロジットモデル-」(日本教育社会学会第66回大会(愛媛大学・松山大学) 2014年9月13日発表)