まず国家全体としては読み聞かせにどのような対応をしているのでしょうか?
文部科学省では、初等中等教育局の幼児教育課で「幼児とともに心をはぐくむキャンペーン」というのを行っていました。これは少子化や核家族化など社会環境が変化する中で、幼児期に子どもがどのように成長していくのか、親をはじめとしたまわりの大人はどのように子どもにかかわることができるのか、幼稚園は幼児の成長をどのように助けているのかということについて事例を紹介したり意見をかわしたりすることによって、大人社会全体で幼児を育てていくことを目的としていました。
この事業では国民から寄せられた体験談や意見を反映してホームページを構成していき、最終的にはホームページの内容を冊子にまとめて全国で幼児教育に関わっている人々に提供する事が狙いとされていました。実際一部の内容は既に冊子となって配布されたようです。
ただしこのようにあくまでも幼児教育の中の一つのテーマとして触れられている程度であり、読み聞かせに特化した事業は現在行われていません。
次に地方の行政機関における取り組みにはどのようなものがあるのでしょうか?
地方において各自治体が行っているものとして挙げられるのは、公共図書館が行っている読み聞かせです。各図書館では赤ちゃんや幼児を対象に様々な催し物を開催しており、その中に読み聞かせが入っていることが多く見られます。
例えば,文京区立図書館では「はじめのいっぽ」というものを行っています。これは、
赤ちゃんから3歳児までを対象にして、絵本や紙芝居などで子どもと保護者が楽しく遊ぶ
ひとときを用意するものです。他にも4歳以上の子どもを対象とした「おはなしかい」
なども用意されています。
このように地方レベルでは、住民に身近な公共図書館が主に読み聞かせを行っていること
がわかります。
さらに、親子の読み聞かせを推進するためにどのような読み聞かせをすればよいのかわからない保護者や保育園の支援用に読み聞かせの参考になる本の紹介などを行っている図書館もあります。
例えば、福島県の県立図書館では児童図書研究室が参考となる図書を“理論編”と“実践編”に分けて紹介しています。前者は子どもと本との関係や読み聞かせの意義について書かれたものが中心で、後者は読み聞かせの方法や実践例について詳しく書かれたものです。
【福島県立図書館 「本の森へのみちしるべ」より抜粋】
《理論編の本の例》 「えほんのせかいこどものせかい」松岡享子・著 「子育てに絵本の読み聞かせを」野村昇司・著 |
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《実践編の本の例》 「絵本からの贈り物」長山篤子・著 「あなたもできる『よみきかせ』」河津京子・著 |
このように見ていくと、図書館は読み聞かせの現実の実践とその普及支援という両方の面における取り組みを行うことが可能であることがわかります。家庭においてだけでなく保育園などでも読み聞かせの重要性は認識されている一方でその方法がよく分からない人は多く存在します。そのような人々への支援はますます重要になっていくでしょう。
他にも市や町で「ブックスタート」を行っているところもあります。「ブックスタート」とは、親と子どもが心と言葉を通わせるかけがえのないひと時を絵本を解して持っていくことを応援する運動です。これは1992年にイギリスで始まり、日本では平成12年の「子ども読書年」を機に全国各地で取り組みが始まりました。現在では300を超える自治体が実施しているといわれています。
方法としては、まず赤ちゃんが誕生すると、健康診断のときに絵本を数冊つめたパックをプレゼントするというものが一般的のようです。しかし、ただ絵本をプレゼントするだけでなく当日に実際に読み聞かせの実演をすることによって、読み聞かせに関心を持ってもらいその場だけでなく家庭においても行ってもらうことに繋がります。
では行政機関ではなく、民間が主体となって行っている読み聞かせはあるのでしょうか?
まず企業が主体となっている例を見てみましょう。最近は読み聞かせは単なる親子の遊びとしてではなく、学習の一貫として考えられている面も存在するようです。また現在は単なる知識だけではなくコミュニケーション力などの重要性が叫ばれています。こうしたことを受けて塾の経営や学習教材提供だけでなく読み聞かせで子供の創造力をのばそうと提案する企業が表れているのでしょう。
ではどのような取り組みが実際に企業で行われているのかを見ていきましょう。
★例えばベネッセコーポレーションが小学校入学前の子供向けに提供している「こどもちゃれんじ」では、2009年4月から従来の教材に加えて「読み聞かせプラスコース」というオプションをつける事ができるようになっています。これは1歳から3歳までの子供を対象にしており、年齢別で送られてくる絵本の内容が異なっています。こどもちゃれんじの「ぷち」が対象としている1歳から2歳までは親子の絆の深まりや子供の豊かな心と感性が育まれるように、「ぽけっと」が対象としている2歳から3歳までは親子コミュニケーションを楽しめるように作られているようです。
《「ぷち」の4月号》
《「ぽけっと」の4月号》
【出典・引用 株式会社ベネッセコーポレーション「こどもちゃれんじ」】
★また日本公文教育研究会では各地の教室での読み聞かせの実施とともに、読み聞かせをテーマにした会員サイト「mi:te(ミーテ)」を運営しています。こちらは絵本の読み聞かせを通して子育てを応援するWEBコミュニティサイトです。ここでは読み聞かせ日記の記入、読み友達づくり、おススメ絵本の情報の入手などができるようになっています。
『ミーテは「ことばで育む親子のきずなづくり」をテーマにしたサイトです。 たくさんのご家庭で 読み聞かせを楽しんでいただき、 子ども達の笑顔いっぱいになることを願っております。』
【出典 mi:te事務局】
http://mi-te.jp/
★他にもしちだグループではしちだ・教育研究所が絵本を教材の一貫として販売しています。ホームページには年齢別におススメの絵本があげられており,オンラインショッピングで1冊ずつ購入できるようになっています。
《0〜1歳対象》
《3〜5歳対象》
【出典 しちだ・教育研究所 】
最後に個人レベルで読み聞かせを行っている人について考えて見ましょう。
もちろん個人のレベルで読み聞かせをすすめている人々も多くいます。地域の保護者同士が集まって読み聞かせをしたり、ボランティアで読み聞かせを行っているというのがその例です。むしろこのような形態が従来までの読み聞かせに対しての一般の認識として考えつく形態だと思われます。最近ではさらに規模を大きくしてNPO法人として活動しているところも存在します。
もちろん現在でもこのような形態での読み聞かせは多く行われていますが、少し違った形も出てきているようです。
例えば絵本研究家の高山智津子氏が販売している読み聞かせのHow to ビデオがあげられます。これは全3巻からなり高山氏の講演会や幼稚園での読み聞かせ実践が収録されています。
《How to ビデオ》
第1巻 第2巻
第3巻
【出典 http://www.childbook.co.jp/info/yomikikase/index.html#top】
現在は核家族化や地域のつながりの希薄化で子育ての方法に悩む親が大勢おり、読み聞かせの方法を教える本やビデオは主にこのような読み聞かせのやり方がよくわからない保護者を対象に作られていると考えられます。
そしてこの傾向は変わることはなくむしろますます少子化がすすんでいくと言われている状況を考慮すると、このように読み聞かせに着目した教材や取り組みを行っていく企業や個人の取り組みは今後一層増えていくのではないでしょうか。
しかし、読み聞かせとは本来どのような効果があるのでしょう。企業が読み聞かせを保護者にすすめる理由としてあげている“子供の豊かな心”や“コミュニケーション力”の育成に本当につながるのでしょうか。そもそも読み聞かせが子供に与える影響とはどのようなものなのかも曖昧です。
次にこの点について調べていきたいと思います。