近年、学校での「朝の読書」活動や、様々な場での読み聞かせなどの活動が活発になってくる中で、読書を通じた人と人のつながりから地域社会(=コミュニティ)をデザインしていこうとする「読書コミュニティ」という考えかたが出てきています。
そもそも「コミュニティ」とは、語り合う、心を通わせる、共同体意識をもちさまざまな価値観を共有する場を意味します。ですから、人々が生活する場において、共通の帰属意識と役割意識をもって行動することがコミュニティの形成には欠かせないことといえます。
秋田喜代美は以上のコミュニティの考え方を読書活動にまで広げ、読書コミュニティとは「読書文化への子どもたちの参加を誘い、共に読書生活を楽しむというビジョンを共有する、市民としての自主性と主体性と責任を自覚した人達による集団体系」であると述べています。そして、こうした読書コミュニティの形成には、「場」が開かれていること、「参加」の呼びかけに応じる人たちとの関係、とが必要であるといいます。
秋田喜代美はさらに、ウェンガーらによる「実践コミュニティ」の概念を読書活動の実践に当てはめ、読書コミュニティとは「読書という話題に関して関心や問題を共有し、その分野の知識や技能を持続的に相互交流して生み出し、共有し実践を深めていく学習者ネットワーク」でもあるといい、ウェンガーの実践コミュニティの区分をもとに、読書活動について具体的に以下の表のようなコミュニティを提示しています。
コミュニティの種類 | 特徴 | 具体例 |
認識されていないコミュニティ | メンバー自身もその存在に気付いていない | 読書活動と意識されていない活動 |
密造されたコミュニティ | 一部の人々に非公式に認められている | 一部の親しい人たちによる読書活動 |
正当化されたコミュニティ | 公式に認められている | 公式に認められている |
支援を受けたコミュニティ | 資源の提供を直接受けている | 経済的支援を受けているNPOなど |
制度化されたコミュニティ | 公式の地位や機能を与えられている | 学校図書館、公立図書館、読書推進協議会など |
(秋田喜代美・庄司一幸編『本を通して世界と出会う 中高生からの読書コミュニティづくり』北大路書房,2005年より作成)
読書コミュニティは、読書を生活の重要な一部と考え、読書による人と人、人と社会のつながりに価値をおく人々の集まりといえます。その構成員は、教師や保育士といった子どもに日々接する人々、司書、学校図書館司書教諭、といった本に携わる人々、読書活動のボランティアをしている人々、作家、書店の店員、研究者、読書好きの一般市民など、さまざまありえるでしょう。また、通信情報技術の発達した現在では、その広がりはグローバルなものとなっています。
こうしたさまざまな立場の人々が、自分の持っている知識や技術を提供したり、まわりで起こっていることや考えていることを共有したりしながら、「教え/教えられる関係」、「学び/学ばれる関係」「支援し/支援される関係」がつながっていき、大きな読書を媒介としたネットワークが形成されます。こうした読書コミュニティのネットワークは以下のようなイメージ図で表すことができます。
(秋田喜代美・庄司一幸編『本を通して世界と出会う 中高生からの読書コミュニティづくり』北大路書房,2005年より作成)