3.ニートとコミュニケーションツールとしてのインターネット

若者にとっての「ニート」のイメージのひとつには、
「インターネットのヘビーユーザー」とでも形容されるべきものがある。

若い世代にとってインターネットは、投資しようと思えば思っただけの時間を投資することが可能な対象であることは、いわゆる若い世代にとって驚くに値することではない。ニートは、学校にも職場にも行っていない→家にいて、時間がいっぱいある→インターネットに接続する時間が長い、という推測は誰もが容易にできるし、してしまうものだろう。


実際、ネットカルチャーやネット依存症に関する研究は、
米国をも凌ぐブロードバンド先進国である韓国で進んでいるのだが、
韓国におけるひきこもり事例のほとんどはネット中毒者でもあるという報告もある。
ネットに依存した結果、働かず勉強もせず家にひきこもるようになった人たちを
「ケンチャニスト(面倒臭ニスト)」といい、長期休学生や青年失業者の中に多いという。
一方で、寝食を犠牲にして生産的な事柄はすべて諦め、
ただネットゲームのためだけに生きる「廃人」もあり、
これについては言葉の用いられ方も日本とほとんど同じであると言える。


韓国のネットカルチャーについて特筆すべきは、
それが少し前までの日本で語られていたような、
「匿名性」であるとか「サイバー上だけのつながり」、「相手が見えない」などではなく、
もっと現実に近いものであるということである。


韓国で多くの「廃人」を生み出した原因のひとつともされる、大規模で多人数が参加する
ネット上のロールプレイングゲームでは、仮想世界内で自分のキャラクターを作ることができ、
そこで「ギルド」と呼ばれるゲーマーの仲間グループができる。
ギルドはゲーム攻略のための集会をオンラインやオフラインで定期的に持つこともあり、
没頭すれば現実よりも「リアルな」人付き合いが始まることも不思議ではない。



身近な事例を考えてみる。
ここ1・2年ほどで、日本でもmixi, GREEなどのソーシャルネットワーキングサイトが普及し始め、
「匿名」ではなく、
現実の人間関係を補強するような位置づけのネットコミュニケーションのあり方が広がった。

ちなみに韓国ではもっと以前から、各人が本名で自分のminiHPを持つサイトが存在し、普及している。
若い世代の「ほとんど全員」が入っているというほどである。
(cyworldへの参加者は700万人近くという。因みに、韓国の人口は4800万人ほど。)

SNSは今までインターネットカルチャーが前提としていたとされた
「匿名性」や「現実社会との断絶」を打破し、
現実の人間関係にプラスアルファないし上書きを施すものであると言えよう。


以上の予備知識とともに、
ひきこもりにインターネットが与える恩恵を
斎藤が指摘していることを付記する。
斎藤は、あくまでもひきこもりの「デイケア活動」を補完する上で有効なものとして理解した上で、
電子メールや掲示板、チャットなどのコミュニケーションを評価し(斎藤, 2003)、
インターネットへの没頭がひきこもりを悪化させるなどの認識を誤りとする立場にある。

斎藤が有効とするインターネット上のコミュニケーションは、
「デイケア活動」の補完としてのそれであり、
現実のデイケアメンバーに限定した掲示板などを活用しているという。

これに注目すると、従来の「匿名性」を前提とした
「サイバー上だけのつながり」のためのインターネットではなく、
現実の人間関係を前提とした、
現実の人間関係のためのコミュニケーションツールのひとつとしてのインターネットが、
端的に言えば、SNSのようなインターネット上のコミュニケーションあり方なら効果的としている
のである。


これだけでは何も確かなことは言えないが、少なくとも、
ここ最近の日本のインターネットによるコミュニケーションは、
従来の「匿名性」や「サイバー上だけ」などといったイメージだけでは説明がつかなくなってきていること、
そして、「現実の人間関係の延長線上」にあるネット上のやりとりならば、
「ひきこもり」状態からの脱却に有効とする見方があること、は確かである。

本ページでは、コミュニケーション、
もっと言うなら「対人関係が苦手だという意識」をもつニートについて考えようとしたが、
リアルの人間と、リアルでだけ接するよりも抵抗が少ないのならば、
現実での対人関係を促進するためのインターネットによるコミュニケーションは
大いに歓迎されてよいのではないか。

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