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○ これまでに行ってきた研究 ○

<誕生〜1歳まで>

●表情の理解 − "にっこり"と"むっつり"の違いがわかる赤ちゃん

●表情と行動の理解 − 笑っている人は“いい人”か?

●モノの見かけと音との関係 ―低い音をたてるのは?


<1歳〜1歳半>

●助詞の聞き取り!? − 抜かしてしゃべっていたのは抜かしてよいと知っていたから?

●発話から単語を聞き取る手がかり

●単語の"種類"の理解 − 名詞と動詞の違いがわかるのはいつ?

<1歳半〜2歳>

●単語アクセントの理解 − 訛っていてもわかる、訛っているのもわかる



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●表情の理解 − "にっこり"と"むっつり"の違いがわかる赤ちゃん

 おとなはほかの人の表情を見て、これは笑顔、怒った顔と理解するとともに、笑顔なら話しかけても大丈夫、怒った顔なら今は話しかけない方がいいかもしれない、と考えたりします。このようにおとなは、表情からその人の感情を読み取り、それにあったふるまいをするのです。おとながどのような表情をしており、それはどのような意味があるのかを理解することは、赤ちゃんにとっても重要だと思われます。では、赤ちゃんはいつごろから、ほかの人の表情を理解し、その表情にあったふるまいをすることができるでしょう?
 調べてみると、生後4か月の赤ちゃんでも既に、笑顔と怒った顔の区別ができることがわかりました。ただ、それらの表情に対してどのようにふるまうのかを見ると、4か月のときは、笑顔に対しても怒った顔に対しても、ほほえみかけたり、手をのばしたりといったポジティブな反応が多いのです。それが、生後6か月になると、怒った顔を見せられると、笑顔を見せられたときより、目やからだをそらせたりする反応が多くなります。このように赤ちゃんは、表情の区別はかなり早い時期からできるようですが、それぞれの表情が自分にとってどのような意味を持つかについては、すこし時間をかけて学んでいくようです。

〜 Janese Psychological Research (2015)

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●表情と行動の理解 − 笑っている人は“いい人”か?



 わたしたちは、笑っている人を見ると、やさしそうな人だな、と感じたり、また逆に怒った顔の人を見ると、いやな人っぽいなと感じたりします。このように、おとなは他者の表情からその人の性格を推測していると言われています。これは、表情を見ることでその人がどのような行動をしそうかがわかるということです。では、赤ちゃんは他の人の表情を見て、その人がしそうな行動を読み取ることができるのでしょうか?  
 この調査では、赤ちゃんにビデオを見てもらい、見ている時間を測りました。ビデオは、「起こりそうな出来事」と「起こりにくそうな出来事」の2種類です。「起こりそうな出来事」とは、笑っていた人物が別の場面でぬいぐるみを助ける、怒っていた人物が別の場面でぬいぐるみを邪魔する、というように、表情とそこ考えられる行動が一致している出来事でした。「起こりにくそうな出来事は」、怒っていた人がぬいぐるみを助ける、笑っている人がぬいぐるみを邪魔する、といった、表情とそこから考えられる行動が一致していないものでした。もし赤ちゃんが笑っている人はぬいぐるみを助けるし、怒っている人はぬいぐるみの邪魔をすると思っていれば、そうでない「起こりにくそうな出来事」のビデオを見たときに驚いてビデオを長くみるはずです。  
 結果は、生後6か月、10か月、14か月の赤ちゃんは、怒っていた人がぬいぐるみを助けるビデオを、笑っていた人がぬいぐるみを助けるビデオより長く見るというものでした。笑っている人がぬいぐるみの邪魔をするビデオは、怒っている人が邪魔をするビデオと差がありませんでした。どうやら、生後6か月という幼い赤ちゃんでも、怒っている人がだれか助けるのはびっくりするほど意外だと思っているようです。一方で笑っている人の場合は邪魔をしないとは考えていないようです。怒っている人はいい人ではない、という理解が、とても早くからあるということがこの調査でわかりました。  
                                                              
〜 PLoS ONE (2017)


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●モノの見かけと音との関係 ―低い音をたてるのは?

 
大きな太鼓の音はドンドン、小さな太鼓の音はトントンですが、読み聞かせをするとき、,大人は思わず、ドンドンは低くて太い声で、トントンは高い細い声で表現していたりします。このような大人の“声の演技”は、大きなモノは低い音をたてるとか、小さなモノは高い音をたてるといったことを子どもが理解していれば、確かに効果的なのでしょう。子どもたちはいつからこのようなモノの大きさとそこから出てくる音の高さとの関係を理解しているのでしょうか。
 このことを調べるために、大きなリンゴや小さなリンゴがはねるのに合わせて、高い音や低い音が聞こえてくるアニメーションを10か月の赤ちゃんに見てもらいました。大きなリンゴは小さなリンゴより低い音ではねるはず、と赤ちゃんが思っていれば、大きなリンゴが小さなリンゴより高い音ではねたりしたら驚いてその映像を長くみてしまうのではないか、と予想したのですが、そういうことはありませんでした… 
 ところで、大きさと音の高さではなく、色の明るさと音の高さの関係については、大人でも、高い音には明るい色、低い音には暗い色のイメージを思い浮かべることが知られています。そこで、赤ちゃんはこのような関係は理解しているのかを、同じような方法で調べました。すると今度は、10か月の赤ちゃんは、濃いグレーのリンゴが薄いグレーのリンゴ(大きさはどちらも同じ)より高い音をたててはねたりすると、(おそらく何かヘンだと思って)長く映像を見ました。
 私たちの生活では、大きなモノは小さなモノより低い音をたてることは当たり前、しかし、白い犬が黒い犬より高い声で鳴くとは限りません。にもかかわらず、赤ちゃんもかなり早い時期から色の明るさと音の高さは関連づけている一方で、モノの大きさと音の高さとを関係づけることはしていません。ということは、大きなモノが低い音を立て、小さなモノが高い音をたてると、私たち大人が思っているのは、そういう関係を経験から学んできたからなのでしょう。一方、高い音に明るい色をイメージする、というのは、人間の脳にもともと備わったしくみで、経験から学ぶ必要はないのかもしれません。
 
〜 Infant Bahavior and Development (2012)


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●助詞の聞き取り!? − 抜かしてしゃべっていたのは抜かしてよいと知っていたから?

 「ワンワン イタ」
 やっと単語をつなげて話すようになった子どもの発話は、多くが、このように、助詞が抜けたものです。助詞は、文を作るときには単語と単語をつなぐ接着剤の役割を果たしている部分なので、大人の発話によく出てきているはずです。それなのに、なぜ話し始めの子どもは助詞を抜かすのでしょう? ごく短い音なので聞き取れていないとか?
 これを調べるために、赤ちゃんに、まず「○○が▲▲しているよ」という文を飽きるまで聞いてもらいました(飽きると音のしてくる方に注意を向ける時間が短くなります)。そして、そのあと、最初の文から「が」が抜けた文や、「が」が別の音「き」に変化している文を聞いてもらい、赤ちゃんの反応を見せていただきました。文が最初に聞いていたのとは違う、ということに気づけば、赤ちゃんは「おや?」という反応を見せるはずです(飽きてあまり注意が向かなくなっていたのが、また注意が向くようになるはすです)。
 結果として、14-15か月の赤ちゃんは、助詞「が」が別の音に変わったときには反応するのに、抜けたときはたいして驚かないことがわかりました。つまり、このころまでに赤ちゃんは、発話の中の「が」という音を聴き取れるようになっているだけでなく、それは抜かしてもよい、ということがわかっているということのようです。

〜 International Conference on Infant Studies (2008)

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●発話から単語を聞き取る手がかり

 私たちは話す時、単語と単語のあいだを区切って話したりしません。このように私たちのおしゃべり(発話)では音は切れ目なくつながっています。それでも、大人は、発話の中に知っている単語を見つけることができるのです。では、知っている単語がまだあまりない赤ちゃんではどうなのでしょう?ひとつの手がかりは、たとえば、発話の中に出てくる「ミルク」という単語は、いつも“ミ”の音のあとには“ル”、そのあとには“ク”が続くけれども、“ク”のあとにどんな音が来るかは決まっていない、ということです。つまり、単語の中では音はいつも同じつながりで出てくるけれども、単語と単語のつなぎ目では音のつながり方は、いろいろ変わります。これまでの研究で、赤ちゃんはゼロ歳後半になると、このような手がかり(音のつながり方の確率)を使って、発話の中から、単語という“音のかたまり”を見つけていることがわかってきました。
 ほかにも、たとえば、赤ちゃん自身の名前や、「パパ」や「ママ」という単語など、赤ちゃんが普段からよく聞いている単語も、赤ちゃんが発話から隣の単語を切りだす目印になります。発話によく出てくるという意味では、助詞もそうなのですが、赤ちゃんはいつから、たとえば助詞「が」を手がかりに隣の単語を発話から切り出すことができるのでしょうか。たとえば、「コレワヌサガスキナカイ ヌサガヨロコブトイイネ」という発話の中から切り出すべき単語は、いつもつながって出てきた音のかたまり全体である“ヌサガ”ではなく、その一部の“ヌサ”だとわかるのはいつころなのでしょうか?私たちの研究室で調べた結果、赤ちゃんは1歳3か月になれば、このようなことができることがわかりました。日本語を聞いて育つ赤ちゃんは、このころまでに、助詞の「が」は特別なことば(音)だということがわかるようになるようです。

〜 Journal of Memory and Language (2016)

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●単語の“種類”の理解 − 名詞と動詞の違いがわかるのはいつ?

 
おとななら、「あそこにヌサがあるね」のような文を耳にすれば、たとえ“ヌサ”という単語を知らなくても、すぐあとに助詞“が”がついているので、おそらくこれは名詞で、何かの名前だろう、といった見当はつきますし、別の文では同じ単語に「ヌサを持ってきて」とか「ヌサは重たい」のように、ほかの助詞“は”や“を”がついて出てくるかもしれない、ということもわかります(ちなみに“ヌサ”は、ここででっち上げた無意味語です。念のため)。このように、あとに助詞がつく、ということを手がかりに、初めて聞いた単語でも“名詞”だとわかるようになるのはいつごろなのでしょうか。
 このことを調べるために、子どもたちに、「ヌサが…」というフレーズが繰り返し出てくる発話を十分に聞いてもらい、そのあと、その新しい単語が、「ヌサを…」のように名詞として出てくる発話を聞いた場合と、「ヌサらない」のように動詞として出てくる発話を聞いた場合で、子どもたちの反応を比べました。結果として、15か月の子どもは、「ヌサが…」と聞いたことのある単語が、別の発話で「ヌサを…」のように出てきても大して驚かないのに、「ヌサらない」と動詞のようにして出てくると驚くことがわかりました。
 つまり、15か月になれば子どもは、単語の使われ方(あとに助詞がつく、といったこと)を手がかりにして、その種類(名詞かそうでないか)がわかるようになっている、ということのようです。このような知識があれば、いま聞いた単語が名詞ならそれはたぶんモノの名前… というようにして単語を覚えていくこともできますね。

〜 電子情報通信学会ヒューマンコミュニケーション基礎研究会 (2014)

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●単語アクセントの理解 − 訛っていてもわかる、訛っているのもわかる

 
「ネコ」なら"ネ"の音を高く("ネ"にアクセントをつけて)、「イヌ」なら"ヌ"の音を高く発音するというように、単語ごとにアクセントの位置は決まっています。とは言え、アクセントのつけかたには地域によって違いがあります。おとなは、アクセントの位置がいつもと違う単語を聞いて一瞬「おや」と思っても、頭の中でアクセントの位置だけ直して正しい単語はこれだろうと考えることができます。では、子どもたちはどうなのでしょう。いつも"イ"のように聞いている単語が"ヌ"のようにいつもと違うアクセントで発話されると、意味がわからなくなってしまうのか、それとも、「いつもと違うけど、きっと""のことだ」と考えることができるのか…
 これを調べるには、たとえば、犬と猫の絵を並べて見せて「
ヌはどこ?」と("イ"にアクセントを置いて)呼びかけた場合と、「イはどこ?」と(いつものアクセントで)呼びかけた場合で、子どもが犬に視線を向けるまでかかる時間に違いはあるのか、最終的に言われたもののことをじっと見ることができるのか、を検討します。結果として、24か月児が犬の絵に目を向けるまでにかかる時間は、「ヌはどこ?」と言われた場合には、「イはどこ?」と言われた場合に比べて長くなりましたが、それでも最後はちゃんと犬を見ることができました。ここから、24か月の子どもも、単語がいつもと違うアクセントで発話されると戸惑うこと、それでも最終的には、(おそらく頭の中で訛りを直して?)その単語が指しているものを探し出すことはできることがわかります。このように2歳の子どもにとってもアクセントは単語理解の重要な手がかりになっているのです。
 
〜 Journal of Memory and Language (2018)