【偏差値】
T score and Z score
ある教科のテストで,たとえば76点という得点をとったとする。これだけの情報では,それが満足すべき出来なのかどうかは判断できない。まずは満点が何点かという情報が必要であろう。しかし,たとえば満点が100点だということが分かっても,それでは不十分である。同じ100点満点でも,非常に難しいテストであれば76点以上の人はほとんどいないだろうし,逆に非常に易しいテストであれば76点以下の人がほとんどいないかもしれない。したがって,この得点を他の人達との比較で相対評価するためには,他の人達の得点分布全体に関する情報が必要になる。
偏差値というのは,こうした相対評価を簡単に行うために,もとの得点を一定の方法で得点換算したものである。その一定の方法というのは,ある特定の集団(これを基準集団という)における得点分布が,下のグラフのように50を中心とした正規分布になるように換算するものである。こうして求められる偏差値は,どのようなテストでも平均が50となり,20〜80の範囲に分布全体がほぼ収まる。
たとえば,基準集団におけるもとの得点の平均が60点であったとしたら,ちょうど60点をとった人の偏差値は50ということになり,平均以上の点をとった人の偏差値は50以上ということになる。もしある人のもとの得点が,基準集団の中での最高点に近いものであったとしたら,その人の偏差値は70点かそれ以上になり,逆にもとの得点が基準集団の中での最低点に近かったとしたら,その人の偏差値は30点かそれ以下になる。要するに偏差値というのは,もとの得点での順位を保ったまま,分布が上記のグラフのような形(正規分布),位置(平均50),そして広がり(ほぼ20〜80の範囲)をもつように換算したものである(分布の広がりについて厳密に言えば,分布の広がりの代表的な指標である標準偏差がちょうど10になるようにしている)。
なお,もとの得点分布の形はそのままとし,平均と標準偏差だけを50と10に合わせるような換算を行うこともあり,その換算点も同様に偏差値とよばれている。「正規化した偏差値」と「正規化しない偏差値」と明記すれば混乱は避けられる。英語では,前者はT score,後者はZ scoreとよばれている。
偏差値は特定の基準集団の中で,たとえば自分の英語の成績と数学の成績は相対的にどちらが優れているのかといった比較をするのには適している。その一方で,偏差値はどのような集団を基準集団として選んだかということに完全に依存するため,異なる集団を基準集団として求めた偏差値を直接比較することはできない。なお,偏差値は学力テストの得点に適用されることが多いが,基本的には純粋に統計学的な換算点であり,どのような内容の変数に対しても(たとえば体重でも血糖値でも)適用可能である。
◆ 偏差値とパーセンタイル順位
偏差値 |
パーセンタイル順位 |
30
40 45 50 55 60 70 |
2
16 31 50 69 84 98 |
基準集団の中での順位を表わすには,何人中の何番という直接的な表示のほかに,得点の低いほうから数えて何%に当たるかという「パーセンタイル順位」による表示もよく使われている。右の表は,偏差値とパーセンタイル順位との関係を示したものである。上記のグラフからも分かるように正規分布では中央付近に分布が集中するため,偏差値の50前後では,偏差値のわずかな違いでもパーセンタイル順位の差が大きくなるという特徴がある。
◆ 受験界でいう偏差値
受験界で偏差値というと,合否の可能性を予測するための模擬テストの得点に適用したものを指すのがふつうである。そして,「A大学の偏差値は55」というような言い方をする場合は,模擬テストの偏差値が55であれば,A大学への合格可能性が一定の値(たとえば60%)を超えるということを意味している。もちろん,この場合も,偏差値算出の根拠となる基準集団が何かということを抜きに,その数字の意味を解釈することはできない。 [南風原朝和]
《参考資料》
芝祐順・南風原朝和『行動科学における統計解析法』東京大学出版会,1990