Shimoyama laboratory, Department. of Clinical Psychology, Graduate School of Education, The University of Tokyo, Japan

石丸径一郎 博士論文要旨(2005年)

レズビアン・ゲイ・バイセクシュアルと自尊感情


同性愛者は、社会的マイノリティであり、ある種のステレオタイプな見方をされている。かつては治療の対象とされていたが、現在では、彼らを理解し、サポートすることが社会的動向となってきている。ただし、他のマイノリティと比較した場合、同性愛者は、外見によって区別がつかないため、自ら求めなければソーシャルサポートを受けにくいという特徴がある。このような特徴を持つ同性愛者に関して日本の心理学は、ほとんど研究をしてこなかった。そうしたなかで本論文は、今後のソーシャルサポートに向けて、同性愛者がどのような世界を生きているのかを明らかにし、他者や社会からの拒絶と受容のなかで生きている彼らの心理メカニズムを分析することを目的としたものである。

論文は、4部12章から成る。第1部では、第1章で関連概念と先行研究を概観し、研究対象の同性愛者・両性愛者を「レズビアン・ゲイ・バイセクシュアル」(以下LGB)と呼ぶことを提案し、その定義を示した。第2章では心理学・精神医学におけるLGBの扱われ方を歴史的観点から確認した。第3章では他のマイノリティと比較し、「ソーシャルサポートの得にくさ」というLGBの特徴を明確化し、第4章で論文の構成と目的を示した。

第2部では、第5章で異性愛者男女に質問紙調査を施行し、異性愛者がもつ同性愛のイメージを分析し、日本おいてもLGBへの偏見があることを明らかにした。第6章では、ダイアリー法によってLGB27名を調査し、質的分析によって「こっちの世界」と「あっちの世界」の間で疎外と受容の感覚を体験しているLGBの日常生活体験を描き出した。

第3部では、第7章でLBGにおける自尊感情の維持の心理メカニズムに関して、「社会的受容の感覚との関連」と、「ネガティブ評価の偏見への帰属との関連」を比較検討した。共分散構造分析の結果、偏見帰属よりも社会的受容感の影響が強いことを明らかにした。第8章では、質問紙調査を用いて「他者からの受容感」と「自尊感情」の関連性を検討し、同性愛者では、異性愛者よりも両者の関係が強いことを明らかにした。第9章では、ダイアリー法を用いて、第7章と第8章の結果の生態学的妥当性を確認した。さらに、第10章では実験法を用いてカミングアウトの効果を検討し、自尊感情を維持するためには、必ずしもカミングアウトをして受容される必要がないことを明らかにした。最後に第4部の第11章では研究で得られた知見をまとめ、第12章で今後の課題を示した。

このように本論文は、これまで日本では心理学的に研究されてこなかったLGBに関して文献調査、質問紙法、ダイアリー法、実験法など多様な方法でデータを収集し、それらを質的研究法と量的研究法で分析している。そして、その結果として、孤立しがちな状況において、他者からの受容感に支えられて自尊感情を維持しているLGBの心理メカニズムを明らかにし、今後のソーシャルサポートに向けての具体的指針を示した。このような点で、理論的にも実践的にも、また研究法の観点からも意義が認められる。よって、本論文は、博士(教育学)の学位を授与するに相応しいものと判断された。