学生相談システムの構成における
コラボレーションの意義と課題
近年、大学に入学する学生の多様化に伴い、学生相談へのニーズが高まるとともに、相談内容も多様化している。特に心理相談だけでなく、修学相談を含めた統合的な相談サービスが求められている。本論文は、このような社会的要請に応えるべく、異種職が組織的に連携して学生相談システムを構成した先駆的実践活動についての事例研究である。著者は、この活動に心理カウンセラーとして参加し、実践者の立場からフィールドワークを行い、質的研究法を用いて統合的な学生相談システムを構成するためのモデルを提案している。論文は、4部9章から成り、段階的にモデルを生成し、発展させていく構成となっている。
まず第1部では、第1章で統合的相談サービスが必要となっている社会的背景と日本の学生相談活動の現状と課題が論じられている。第2章では実践的フィールドワークの方法が提示されている。次に、モデルを生成する第2部では、第3章で研究フィールドであるA大学B学部の特徴が紹介され、第4章で大学教員、学習相談員、心理カウンセラーといった異種職が協働して相談室の組織作りを行った過程が具体的に記述されている。そして、第5章では、その過程の分析を通して統合的な学生相談活動を発展させるためのモデルとして「コラボレーションによるシステム構成の循環的プロセスモデル」が生成された。
第3部では、提案されたモデルを有効に実践するための課題と方略が検討されている。まず第6章で、運営委員(大学教員)を対象とした面接調査を行い、現場相談員と上位システムである運営委員会とのコラボレーションを成立させるための「情報の共有」と「委員の姿勢」に関する課題と方略が抽出された。また、第7章で具体的相談事例を通して、学習相談員と心理カウンセラーという異職種の相談員間の関係が検討され、さらに第8章で相談員への面接調査によってコラボレーションを成立させる方略として「継続事例への対応の統一」「相手の一般的対応についての理解の形成」「面接中に主導権を行使するやり方」が抽出された。最後に第4部では、第2部で生成されたモデルと第3部で明らかとなった方略を総合した「コラボレーションによる学生相談システム構成の統合的モデル」が提案され、その上で研究の意義が論じられている。
本論文は、異種職が協働して学生相談活動を構成した先駆的事例についての実践研究である点で意義がある。また、フィールドワークの手法に基づき多面的データを収集し、データ分析にはグラウンデッドセオリーアプローチを用いてカテゴリーを抽出し、それらを総合した統合モデルを提案している点で、方法論の観点からも評価できる。近年、学生相談に限らず、様々な心理援助の領域において異職種が協働して相談システムを構成することが社会的に求められている。本論文は、他の領域にも適用可能な「統合的相談システムの構成モデル」を提示しており、このような社会的要請に応えるものともなっている。よって、本論文は、博士(教育学)の学位を授与するに相応しいものと判断された。