――「日本のピア・サポート・プログラム」について――

 

■日本のピア・サポート・プログラムの方法
☆日本のピア・サポート・プログラムとは?
 今の子どもが抱えている対人関係の未熟さを克服するために、予防教育的な観点からなされる生徒指導のことです。


☆なぜ、予防教育的な生徒指導が必要なのか?
 昨今のいじめでは、ちょっとした個人同士の人間関係のもつれがクラス全体に広まってしまうという状況があります。これは今の日本の子どもたちに、心の痛みや体の痛み、ぬくもりを肌で感じるような生活体験が一昔前と比べて不足していること、その結果対人関係が未熟なまま、集団生活を強いられる学校生活を始めることに問題があります。

 そのような現状に対して、問題の発生したところにだけ介入していく対症療法的な手法では子どもを守ることはできても、育むことはできません。

 日本のピア・サポート・プログラムでは、深刻な問題の顕在化していない子どもも含めて、問題が起きてからではなく起こさないようにするための予防教育的な取り組みが必要だと考えられています。


☆日本のピア・サポート・プログラムでは何を身につけさせるのか?
 そしてここで、子どもが他者に対する意欲や関心を育む際に核になるものとして、「自己有用感」(※1)を想定します。この「自己有用感」を身につけるために、子どもたちに「お世話をする活動」「他の人の役に立つ活動」に取り組ませます。

※1
「自己有用感」
 →他者からの評価に基づく自信や自覚といった自己評価。
  これを獲得できると、他者とかかわる意欲や関心を自ら育んでいけるようになると考えている。



☆では、実際にどのように学校の中でお世話活動を行っていくのでしょうか。
 ポイントが2点あります。

@異年齢同士の関わりあい
 「お世話をする」が成り立つのは、縦の関係においてです。したがって学校においては、同質性の高い学級や学年の枠を超えた、異年齢・異学年で交流する機会を持ちます。「縦の関係」というと、厳しく不平等な上下関係というイメージを持ちやすいですが、誰もが最初は1年生で最後は6年生、あるいは中学3年生になれるという長期的視野が持てれば非常に平等と言えます。

 年少の頃はお世話をしてもらう側になり、お兄さんお姉さんの模範的な姿を見て憧れ、してもらったことにはありがとうを言わなければいけないということを学びます。年長になると、今度はお世話する側になり、任されたことをやり遂げる責任感や達成感、下級生に感謝された喜びを知ることができ、自己有用感を獲得していきます。

A間接的に働く教職員の連携協力
 この活動の主役はあくまで子ども、そして年長者に自己有用感を獲得させることが目的です。したがって教師は、活動の場を提供して上で、危険がないようそれとなく見守ったり、褒めたりと子どもたちを統制するのではなく間接的に働きかけることが重要です。

 異学年での取り組みということは、1つの学年の中だけではない、学校全体の取り組みになることを意味します。活動のための場所やスケジュール調整はもちろんのこと、1年生の先生は1年生が6年生から教わるように仕向け、6年生の行為がうまくいったときにはしっかり褒めてあげる、1年生にも感謝の言葉が出るようにするといった協力が不可欠です。



■具体的事例
 おおまかな概要は以下のようになります。

領域1  領域2 
1.体験的トレーニング
 「お世話活動」に取り組む前の、対人関係に関するウォーミングアップの場。対人関係が苦手な子ども達をいきなりお世話活動に送り出すのは負担が大きい。そこで、事前学習の一環として同学年の子ども同士でゲーム等を行うことで、抵抗感を少なくし、お世話活動に向かう動機付けを行っていく。
 体験的トレーニングは、ゲームなどを通して行う以下の8コマから構成されており、これらの活動を「領域1」としている。

◇「ウォーミング・アップ」「知りあうために」
◇「協力するために」
◇「気持ちや感情」
◇「聞き方・伝え方@−気持ちを聞きとるには」
◇「聞き方・伝え方A−話を伝えるには」
◇「聞き方・伝え方B−聞く時の姿勢や態度」
◇「人間関係づくりー説得力のある言い方や態度」
◇「ふだんの生活のなかでー集団生活の中での意思決定や問題解決」
   
 2.事前学習
 体験活動の準備段階として、活動内容、役割分担、時間配分、回数などを話し合い、そんなお世話活動にしたいか考えていく。
 3.お世話活動
 日本のピアサポートプログラムの中心である。学校によって、異年齢交流、中学校であれば職業体験活動、奉仕体験活動などを中心に据える。
 4.事後学習
 体験活動によって得られた意欲や感情を定着させていくために、活動の整理やまとめを行う。 


◎小学校編
●5学年3学期
・トレーニング8コマ「対人関係に関する体験的学習」

●6学年時
・計画・準備「活動に関する学習」
・お世話をする活動
 →異学年交流で取り組む/縦割り班活動で取り組む
・ふりかえり「お世話活動を整理する学習」

◎中学校編
●1学年時
・2年生の活動を聞く会

●2学年時
・トレーニング8コマ「対人関係に関する体験的学習」
・計画・準備「活動に関する学習」
・お世話をする活動
 →総合的な学習の時間の体験活動で取り組む/学校行事の異学年交流活動で取り組む
・ふりかえり「体験活動を整理する学習」

●3学年時
・計画・準備
・2年生に活動を伝える会
・ふりかえり

*総合的な学習の時間で取り組む場合
 →職業体験活動、異年齢交流活動(中学生と保育園児など)、奉仕体験活動(老人施設訪問・地域清掃・募金活動)

*学校行事の異年齢交流活動で取り組む
 →縦割り活動(合唱練習など)



*参考
 『ピア・サポートではじめる学校づくり 中学校編 「予防教育的な生徒指導プログラムの理論と方法」』滝充編著
 「生徒指導研究センター 滝充のページ」http://www.nier.go.jp/a000110/


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