個別指導における実践


 認知カウンセリングの手法や動機づけ理論を実践に活かして、生徒の学習意欲を向上させようとすることで、私の中で理論が体系的・実用的に整理され、より効果的に人を動機づけられるようになるのではないか。そして、それは自発的な学習者を育てるにはどうしたらよいかを考えるうえでとても有意義なように思う。

 そこで、ここでは理論と実践を結ぶ手法の一つである認知カウンセリングを採り入れて行った学習指導の結果を報告する。


指導概要



生徒 中学2年生(私立小中高一貫校:男子)
期間 2007年6月6日から2007年7月20日までのうち2日間。実施回数が少ないため、夏休みも継続して実施予定。指導開始日に学習観に関するアンケート調査を行った(結果を掲載予定。質問表は『学習を支える認知カウンセリング』66項に掲載されているもの)。
科目 数学
生徒の背景 ・数学の勉強時間
個別指導塾に中学1年の頃より通っており、私が週に2時間数学を教えている。指導毎に1時間ほどで終了する分量の宿題を出している。学校では中学校3年間の内容を2年生のうちに終わらせるペースで授業が進んでいる。
・数学の基礎力
数学の基礎力は高く、新しく学習する分野であっても一、二度説明すればすぐに理解し練習問題に取りかかれる状態になる。一方で、テストの際には問題文を読み違えたり、計算ミスをしたりすることが目立つ。学校での数学の成績は70点台中盤から90点台前半であり、平均80点ほどである。
・関心・態度・意欲
小中高一貫校に通っているため高校はエスカレーター式に進学することを考えている。将来希望する職業は定まっていない。色々な職業に関心があるようだが、それを目標として現在の行動をコントロールしてはいない。学習意欲は著しく高いわけではないが低くもなく、宿題などの課題に対してはある程度真面目に取り組んでおり、指導中の態度は比較的良い。しかし、自発的に学習を進めようという態度はあまり見られない。与えられた課題は真面目に消化するが、自分から課題を設定して勉強することはしない。「勉強は好きでも嫌いでもないが、どうもやっておいた方が良さそうだからやっている」という認識を持っていると推測される。
・課題
簡単なミスを無くすこと、自ら課題を設定して計画的に勉強できるようになること。

指導目標



動機づけの側面から 数学そのものへの興味・関心を高めることで内発的動機づけを強めたい。
メタ理解の側面から
自己の学習状況についてのメタ理解(ペ―ジ内にリンクを貼りたい)を深めることによって、自ら課題を設定する力を養う。
指導風景(音は聞き取りづらくなっています)

具体的な実践



ケース@
(経過) ↓指導風景
凡例
松:松本,生:生徒
「 」:発言,<>:ノートの記述
問題1
を満たすxの値を求めよ。
生:<x=2>

松:「どうして2にしたの?」

生:「xの2乗が4になるから。」

松:「2乗して4になる数って2だけだっけ?」

生:「…ああ,-2もですね。」
このときは一応,理解していたようだが,数分後に下の問題を解いていた際に,同じ間違いをした。
問題2
次の式を満たすxの値を求めよ。

生:

松:「2乗して4分の1になるのは2分の1だけ?」

生:「はい。」

松:「じゃあを満たすxの値はどうなるの?」

生:「あ,それは±2だから, も±をつけて2乗を外
  さないといけないですね。」
松:「そうそう。じゃあ,さっきの問題と今の問題の共通点は?」

生:「…何か2乗してある数になるものは2つあるってことです
  か?
松:「うん。大体そういうこと。今言ったことをノートにメモしてお
   いて。
生:「はい。」

(考察)
何かを2乗して正の数になる数はプラスのものとマイナスのものとで二つあるということを理解させたかったのだが,表記がからへと変わったことで,一度は理解した(ように見えた)ルールが適用できなくなってしまった。そこで,教訓帰納(解いたあとに,なぜ解けなかったのかを整理させる)を用いて生徒のメタ認知を促した。