東京大学大学院教育学研究科    佐藤 学教授

「行動する研究者」として,全国各地の幼稚園,小学校,
中学校,高校,養護学校を訪問し,教師と協同して教室と学校を
内側から改革する挑戦を行ってきた。現在,「学びの共同体」という
学校の未来像を提起して学校改革を推進している。


「学びの共同体」を進めている佐藤学教授に「協同学習」についてインタビューしました。


Q 協同学習のメリットとは何でしょうか?

 学びっていうのは基本的に「協同」だと思っています。
心理学では,従来学びは個人が単位で,行動の変容や認知構造の変容を学習と考えていました。
だけど,僕の考えの基盤には,デューイ,それにビゴツキーの発達心理学の2つがあり,
この考えによれば,
学びっていうのはコミュニケーションなのです。

 このコミュニケーションに関して,学びの3身一体論っていうのがあるのですが,それは対象との対話,他者との対話,自分自身との対話,こういった対話のプロセスを通じて学習は成り立っていくと考えられているんです。
つまり,協同学習だけが単独ではあるのではなく,協同学習のプロセスの中で他者との対話,対象との対話,自分人身との対話につながていくんです。

 それに対して,今の教室っていうのは非常に個人主義的で,一人ひとりの机もバラバラであって,これをどう協同に変えていくか考えていく必要があります。

 では,なぜ協同が必要か,その理由は2つ考えられます。
1つは先ほど述べたように根底で学びは協同なんですね。
2つめは,「協同なしではひとりひとりの生徒の学習を保障できない」事ですね。
ここで言う小グループの学びでは,
自分ひとりでは到達できないところへ届く「背伸びとジャンプ」と呼ばれる原理があります。
これは,ブルーナーがscalfolding(足場かけ)と呼んだ原理と同じです。
つまり,協同学習では小グループにおける活動と対話を媒介にして,背伸びとジャンプが起こり,
ひとりひとりの学び保障へとつながっていきます。

 こうした原理をもとに,協同学習は導入した際の高い効果が期待されます。

なぜかというと,通常の教室では,3段階位のレベルの生徒がいて,
教材のレベルっていうのは,上位レベルの少し下くらいに設定されています。このため,通常の授業ではほとんどの生徒で背伸びとジャンプの機会がないのです。
(背伸びとジャンプが起こるのは,テキストレベルのちょい下レベルのほんのわずかだけです)

 こうした現状の状況を変えるには2つの条件が考えられます。
1つは課題を高いレベルに置く事
2つ目は下の人たちの問いを拾い上げる事です
このギャップを埋めるていく事が授業だと思います
そのためには子供たちに一旦問いを返し,
小グループでそれぞれにジャンプしていく機会を与える事が重要だと考えます。
また,興味深いテーマですが,男女が混ざる方がジャンプが起きるんです。


Q 今の日本教育においての,協同学習の意義とは?

 今の日本の教育では,学習がますます競争社会化しています。
同一性の中に近づけていくと効率があがるという考えに支配されており,
競争がインセンティブなっています。

 しかし,ジョンソン & ジョンソン(理論編 メリット参照)がメタ分析を行った研究のように,
やはり競争よりも協同の方が重要なんですね。
例えば,競争が生み出す弊害として,テスト主義に適応できない2通りの子が出てきます。
1つは,学習レベルについていけない子ですね。
2つ目は,テストの点より数学的思考を楽しむ子どもで, こうした子ども達はテスト主義の中で数学嫌いになってしまいます。
こうした弊害に対しても,協同学習へと持ち込む事が,やはり一番有効だと思っています。