(1) 聴覚障害児の定義
聴覚障害とは、先天性・後天性を問わず、なんらかの原因によって引き起こされた「聞こえの生涯」をいいます。聴力損失の程度によって軽度難聴と高度難聴・聾のように分けられ、前者は主に普通幼稚園、小・中学校へ、後者が聾学校で教育を受ける対象時となる。後者の子供たちの平均聴力損失地は90デシベル以上であることが多いです。これは地下鉄に乗っていても電車の騒音が聞こえないくらいといえます。
(2) 聴覚障害児の体力特性
下の表をみてください。
この表から以下のようなことがわかります。
体格では聾学校と普通校の児童・生徒の間には、差はほとんどないのですが、体力・運動能力は普通校の児童・生徒に差をつけられています。発育・発達曲線は、聾学校と普通校ではほとんど同じです。
聾学校児童・生徒は、普通校児童・生徒に比べ体力・運動能力が若干劣っています。
このような発達の遅滞は、聴覚障害に直接起因すると考えるよりも、聴覚障害から派生する二次障害であると考えることができます。聴覚障害児を取り巻く生活環境に問題があるのではないでしょうか。
この理由としてはさまざまな理由が考えられます。具体的にはその理由は以下の5点をあげられます。
@小学校などでも通学時間が長いため、遊び、運動の時間が少ない。
A学校教育活動全体の中で、十分な体力づくりの指導がなされていない。
B教師・父兄の側にも体力づくりの重要性が十分認識されていない。
C言葉の発達に目を奪われ、身体の発達をおろそかにしがちになる。
D子供に積極的に運動させるための、運動環境の整備が不十分。
(3) どのように体育指導を行うか
聴覚障害児は体格・体力・運動能力のかなりの部分で、健常児に差をつけられているます。したがって、体育の重点的な目標は体力や運動能力を高めることに置かなければなりません。体力・運動能力の向上というテーマは、聾学校の大きな課題です。大切なことは、これを教科としての体育だけで行うのでなく、もっと広がりを持たせ、教育活動全体の中にきちんと位置付け、全校あげて取り組むようにすることです。
具体的な指導上の留意点としては次のようなことがあげられます。
@能力別のグループ編成は水泳など特別の場合を除いてはとらず、均質のグループをいくつか編成し、それぞれのグループの中で個々人が協力し合い、助け合って、各人の持つ能力を最大限発揮できるようにする。
A 具体的な数字として記録に取れるものはなるべく毎回とってやり、表やグラフなど目に見える形にして、生徒にフィード・バックしてやる。
B生徒の自主的な活動を大切にする。
C 考えさせ、理解させるために、具体的な資料を活用する。
DVTRの積極的な活用を図る。
E 運動学習時にも、できる限り聴覚の活用を図る。
F旗や太鼓などのほかにも、ランプなど、光の利用を考える
G生育暦、正確・行動の特徴等を十分に把握し、日常の体育指導に生かすように努める。
(4)指導例
指導展開例(聴覚障害児) | ||||||
第3学年 | ||||||
教材名 | 方形ドッジボール |
ねらい | 運動 | ・ボールを当てたり、避けたり、捕らえたりして楽しくゲームをすることにより、体の調整力を高めるとともにボール運動に必要な投・捕球の基礎的な技能を養う。 | ||||||
態度 | ・自分たちに合った規則や約束を相談して決めることができるようにする。 | |||||||
・自分たちで決めたことを守り、励ましあってゲームをしたり、勝敗について正しい態度がとれるようにする。 | ||||||||
・この教材に適した準備運動と整理運動をつくり、それをしっかりと行う態度や、つめを切ったり運動後の体の始末など、安全や清潔に注意する習慣や態度を養う。 | ||||||||
・学習した教材を積極的に生活の中に取り入れようとする態度を養う(生活化)。 |
※備考
自分たちに合ったルールを考えさせる時、聾学校の特殊性として @大きな能力差(個人差) A男女比のアンバラス B少ない人数、等が考えられるがこの学年では能力差を主として考慮し、弱い者、下手な者が積極的にゲームに参加できることを目標にすることが大切であろう。その一例として、攻撃体形のフォーメーション化とローテーションシステムもよい方法だと思われる。(バレーボールのように。)
『現代小学校体育全集 11 障害児の体育指導』 日本学校体育研究連合会(編)/ぎょうせい より引用