(1)視覚障害の定義
 「聴覚障害児」といわれている子供たちは、先天性・後天性の要因により、「視覚受容器」やその「伝導器(視神経)」に損傷があるために、生活・活動・学習などにおいて不自由さを持たされています。それは、視覚からの情報の取入れが制限されるため、目で見てものを認識するという働きの制限、特に、形や空間を把握することを苦手としたり、抽象的思考や空間における運動のイメージ・体の位置を保つことの困難などであり、それが「発達の遅れ」のひとつの要因になって、歩行の不安定さとして現れるケースも多くあります。視覚障害の特徴歯具体的には次のようにまとめられます。

@視覚障害とは,視力,視野,色覚等の見る機能の障害の総称です。視力障害とは,このうち物の形などを見分ける力の障害です。

A一般的には両眼の矯正視力が0.3未満で,視力による教育が可能なものを弱視児といいます。両目の矯正視力が0.02未満で視力による教育が困難であったり不可能であったりするものを盲児と呼びます。

B障害には視野の狭くなってしまう視野障害もあります。視野が狭くなってくると全体の状況を把握したり、動きのあるものを追ったりすることが困難になります。

C視覚障害児には、障害の種類がさまざまにあり、それらが複雑に絡み合っているため、障害の個人差が非常に複雑になっています。

(2)視覚障害児の体力特性
視覚障害児は主に次の3点の要因で体力が不足したり運動の技能の習得が困難になることがあります。

@模倣の困難性

A強い運動への恐怖心

B日常生活での運動経験の不足


 具体的な体力を見るには、下のグラフを見てください。棒グラフの項目は左から順に身長、体重、垂直跳び、背筋力、握力、立位体前屈、50m走、ハンドボール投げです。

これを見るとまず、全般的に体力は低くなっていることがわかりますが、これは日常生活での運動経験の不足からくるものでしょう。また、特に50メートル走の値が低くなっていることが特徴的ですが、これは強い運動への恐怖心からくるものでしょう。ハンドボール投げが低くなっているのは模倣の困難性も一要因になっていると考えられます。

 しかし、視覚障害者のスポーツを見てみればこのような体力の計測だけでは一概に視覚障害者の体力を評価できないことがわかります。たとえば、盲人バレーであれば、選手は音をたよりに、激しく走り、跳び、活発に動き回ります。彼らは視覚に障害がある分、視覚以外の感覚を非常に鋭くとぎすましているのです。

(3)どのように体育指導を行うか
 視覚障害を伴う障害の重い子どもの発達は、運動・感情・形や空間の認識や言語・手・指の働きの面に遅れが目立ちます。そのため、認識や言語の課題のみを重視した取り組みに隔たったり、視覚障害を補う機能としての、聴覚や触覚の訓練を急ぐあまり、視覚障害児の豊かな経験の範囲を狭めてしまい、結果的に形や空間の認識を不自然・不均衡なものにしてしまうこともあります。このようなことに注意して、具体的には以下の7点を指導の目標・留意点とする必要があります。

@直立の獲得

A正しい歩行の獲得

B手・指の操作機能の獲得

C日常生活における基本的なことの習慣化と獲得

D遊びの豊かな保障とともに、感情を豊かに育てる

E上記の@〜Dの獲得した力を使って、視覚障害から来る行動の制限を克服するための、探索行動を旺盛にしてやる

F視覚に損傷があるがために、形や空間の認識・自分の体がどのような状態にあるかのイメージの点で困難があるが、この困難を克服するために、遊びの工夫や音響的環境の整備を進め、言語、聴覚、触覚を中心とした視覚以外の力をのばしてやる


(4)具体的な指導の例

体育指導の展開
対象 1年生
ねらい 技能 ・いろいろなボール遊びの仕方や技能を身につける。
・簡単なゲームができる。
態度 ・だれとでも仲良く、きまりを守って、ボール遊びを行う態度を育てる。
学習活動 留意点 指導上の工夫
指導計画 1次 ・ボールを上、横、下から手渡しする。指を開いて両手でボールを捕らえる。 ・並んで順番を守らせる。 音の出るボールを利用すると効果的である。
(45分×1) ・声をかけながら順送球をさせる。
・視力差を考えてボール遊びを工夫することが望ましい。
2次 ・音のする方向へボールを投げる。 ・合図や約束を守らせる。
(45分×1) ・片手でボールを転がす。 ・片手で投げたり、転がしたりさせる。 ・転がしドッジボールでは中の者を二人一組にして(全盲児と弱視児が組む)一緒に逃げるか、またはボールを捕る方法もよい。
3次 ・止まっているボールを片足で音のする方向へける。 ・ボールを手で確認し片足で思い切りけらせる。
(45分×1)
4次 ・ボールを転がし、中の者に当てる。中の者はボールから逃げる。(ドッジボール) ・ボールを避けたり、捕ったりする時、他人を押したり突いたりしないようにさせる。
(45分×2)
評価 ・逃がしたボールを進んで捕りに行くことができたか。
・音のする方向へボールを投げたり、転がしたりすることができたか。
※一人でできるボール遊びは、@ボール転がし−地面にあるボールを両手で押さえ、持ち上げないで転がしていく。Aフォールボール−板・壁を利用してボールをぶつけ、はね返ってきたボールを捕らえる。

音の出るボールについては、盲人卓球・ブラインドサッカー・サウンドテニスやフロアバレーとして様々なスポーツに利用されています。
ブラインドサッカーの紹介 ⇒こちらのページへ
サウンドテニスの紹介 ⇒こちらのページへ(日本サウンドテニス協会)


『現代小学校体育全集 11 障害児の体育指導』 日本学校体育研究連合会(編)/ぎょうせい より引用