自己評価の行われ方


2つの事例を踏まえた上で、自己評価がどのようになされるべきか、といった展望を述べたいと思います。
T自己評価の問題点 〜妥当な評価?
U自己評価力をつける〜対話的な評価を




T自己評価の問題点
自己評価の問題として、妥当性の問題があります。つまり、学習者によっては、評価が甘くなりすぎたり厳しくなりすぎたりすることがある、ということは容易に予想できるではないでしょうか。アメリカの大学生70%が「自分は平均よりもリーダーシップがある」と答えたという調査があります(Gilovich 1991)。これは自己評価が甘くなされてしまっている例と言えるでしょう。それに対して、日本人には自己卑下的傾向があることもよく知られています。これは自己評価を厳しくしすぎている例であります。

しかし、ここで考えてみたいことは、「自己評価の妥当性」は重要であるか、ということです。もちろん、教師による評価は妥当でなくてはなりません。学習に対する動機づけに大きく作用してしまいます。他人から不当な評価をもらってしまい、やる気をなくしてしまった経験のある方も多いのではないでしょうか。
では自己評価に関してはどうでしょうか。水間(1998)は「理想自己の水準の高さは自己評価を低下させることになるが、一方で個人の自己形成に向かっていきたいという意識の高さのあらわれともみなしうる」としています。学習指導とは異なる、心理学的な研究の中の自己評価について述べているものですが、これは学習についても同じことが言えるのではないでしょうか。つまり、(不当に)低められた自己評価からでも、その後の学習への取り組みにより自己の能力を高めたいという意識を持ち、学習へのフィードバックとなりうるのではないでしょうか。

自己評価でより重要なことは、正しく評価することよりも、その後を正しく方向付けられるか、という点だと言えます。自己評価力に関してはその点を重視して考えていく必要があります。


U自己評価力をつける
自己評価力はどうすれば高められるのでしょうか。緒川小学校の実践例や認知カウンセリングの技法からわかることは、いずれも「やりとり」が重要であることがわかります。

緒川小学校では自己評価の後で児童が相互評価、または教師が吟味をすることで、自己評価後の方向付けをしています。認知カウンセリングに至っては、元々学習者とカウンセラーが対話的に接する形態ですが、自己評価がうまくいかない時の援助として指導する側が部分的に誘導する技法をとり、学習者の自己評価力を高めることにつなげようとしています。「自己評価を評価」する他者の存在が自己評価力向上のための大きな要素といえます。

もちろん、妥当性も無視していいというわけではなく、過度に甘い又は厳しい評価にならないためにも、あらかじめ目標を設定したり、多面的に評価することが必要であることは言うまでもありません。


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