認知カウンセリング


ここでは「認知カウンセリング」という研究について述べたいと思います。
T認知カウンセリングとは?〜「活動」としての認知カウンセリング
U認知カウンセリングに用いられている技法
V認知カウンセリングにおける自己評価




T認知カウンセリングとは?
認知カウンセリングという研究は、東京大学教育学部の市川伸一教授によって提案された活動です。これは○○がわからなくて困っているという学習者に対する、面談・相談・指導を通じて、実践的な認知研究をしていくもの(市川、1991)です。カウンセリングの学習版と言えます。

塾の個別指導や家庭教師の指導とどう違うのか、と思った方もいるかもしれません。確かに家庭教師や個別指導と認知カウンセリングは、指導の形だけならば類似点が目立ちます。いずれも指導する側と指導される側が1対1であるという点が大きいでしょう。

しかし、「認知カウンセリングの特徴は、相談・指導のしかたではなく、実践を通して、それを検討していくという活動のしかたにある」(市川、1998b)という表現からわかるように、実践のみならず、その後の検討にも重点を置いている点が特徴的であります。認知カウンセリングの目標としては、指導の後にケース報告をし、討論することで研究として蓄積していくこと、そして最終的には学習者に自立を促すこととしています。

そのため、指導においてどのようなやり取りがあったかを記録しておく必要があり、この辺り、いわゆる(本来の)カウンセリングに通じるものがあることが窺い知れます。


U認知カウンセリングに用いられている技法
本来ならば、認知カウンセリングでは、上で述べたように指導後のケース報告に対する検討、討論が重要とされているのですが、自己評価について考えるために、技法に焦点をあてていきます。認知カウンセリングでは、指導する側に必要な、基本的な技法が紹介されています。以下6つがそれにあたります(市川、1991)。

@自己診断:「どこが/何がわからないのか」を表現させる
A仮想的教示:概念や方法を、知らない人に教えるつもりで表現させる
B診断的質問:どこまでわかっているかを試すための質問を用意する
C比喩的説明:概念の本質を比喩で説明する
D図式的説明:概念間の関係を整理して図式化する
E教訓帰納:「なぜ解けなかったのか」という教訓をひきだすことを促す



V認知カウンセリングにおける自己評価
Uの@とE、つまり自己診断教訓帰納が自己評価にあたると言えます。

自己診断により、自分の理解状況を知ることができ(これをメタ認知と言います)、教訓帰納を通じて、次からはどうすればよいのか、を考えさせることになります。学習者の自立を促す、つまり自己学習力を身に付けさせることを目標とした認知カウンセリングでは、このように自己評価も学習のためのフィードバックに繋がりやすい形になっているところが注目すべき点であります。

ただ、最初から自分の理解状況を明確に把握でき、指導を経て教訓を得ることは難しいことです。TVのあるCMで「どこがわからないかわからない」と勉強している子どもが呆然とするものがありましたが、まさにそれで、いきなり適切な自己評価をできる学習者はむしろ少ないでしょう。そこで、UA仮想的教示やB診断的質問のような技法が用意されていることは注目すべき点です。ABを指導する側が学習者に体験させることの繰り返しによって、自己評価力向上のための援助となりうるのではないでしょうか。非常に難しいと言われる自己評価を正しく行うためのヒントになっていると言うことができるでしょう。


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