演題2 (14:20〜15:40)
海馬体の空間認知・記憶機能およびそれに伴う自律神経反応
西条寿夫、堀悦郎、梅野克身、小野武年(富山大学大学院医学薬学研究部 システム情動科学、CREST, JST)
認知機能発現時には、必ず自律神経反応を伴うことが知られている。
海馬体は、すべての新皮質感覚連合野からの入力が収束している特殊な
脳領域の一つである。皮質感覚連合野からの情報は, 海馬傍回を介して
海馬体に送られる。また、逆に海馬体から新皮質感覚連合野へ逆方向性
の線維投射がある。これら解剖学的特徴は, 海馬体が各種情報を連合し、
記憶する過程に関与していることを示唆している。これまでの研究によ
り、海馬体は内部に過去の記憶情報を保持しており、これら記憶情報と
入力情報とのミスマッチを検出するコンパレーターとして機能し、検出
された新しい情報を記憶していく過程に重要な役割を果たしていること
が示唆されている。ニューロン活動を記録した神経生理学的研究による
と、海馬体には、動物が特定の場所にいるときに活動が上昇する場所細
胞が存在する。われわれの研究により、これら場所細胞は、空間情報の
みを符号化しているのではなく、多くの情報の組合せ(例えば、空間視
覚情報+報酬情報+歩行情報など)を符号化していることが明らかにされ
つつある。すなわち、これら場所細胞は、動物が特定の場所にいるとき
に受け取る様々な情報の組合せを符号化し、保持していると考えられる。
一方、乗物酔いや宇宙酔いなどの動揺病(motion sickness)は、様々
な振動や空間画像刺激により顔面蒼白、悪心(吐き気)などの自律神経
症状を呈する疾患であるが、繰り返し刺激することにより慣れが生じる
ことが特徴である。原因として、視覚、固有感覚(深部知覚情報: 筋肉
などからの入力)、前庭感覚(前庭器官からの入力)など多感覚間の不
一致(感覚ミスマッチ)により起こると言われているが、詳しい脳内機
序は不明である。われわれは、動揺病における海馬体の役割を明らかに
するため、ラットを小型トレッドミルの上に載せ、トレッドミル自体を
後方へ移動させることにより感覚ミスマッチ(固有感覚は前進、視覚・
前庭感覚は後進)を誘起して、海馬体の反応を解析している。その結果、
感覚ミスマッチにより海馬体の活動が上昇するが、繰り返し刺激するこ
とにより次第に低下することが明らかになった。以上の結果は、海馬体
で感覚ミスマッチが検出され、海馬体が過剰に活動することにより動揺
病が起こることを示唆する。本講演では、海馬体ニューロンの記憶・認
知機能とこれら自律神経活動との関連性について考察したい。
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