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研究プロジェクト

脳の情報処理,脳機能、特に知覚情報処理における神経活動のダイナミクスの役割について研究をしています。 特に神経活動の振動、同期、ノイズ等のダイナミクスが果たす機能的な役割を検証し、その応用を考えています。

脳は莫大な数のニューロンが結合した系であり、非線形振動子の結合系と見なすことができます。
このような結合振動子系では要素間の振動同期が起きることが知られています。実際、脳において単一ニューロン間から領野間に至るまで様々な空間スケールでの階層的な神経振動の同期現象が脳波測定などにより観察されます。このような振動同期は,不完全,多義的な環境下で知覚状態を確定し,合目的的,機能的な反応をするための情報の統合,神経活動のバインディング過程において重要であると考えてそれを実証する研究を行っています。


1.経頭蓋磁気刺激と脳波測定による脳ダイナミクスの研究
 ヒトの脳活動状態をモニタし、その状態に応じてリアルタイムでTMS(経頭蓋磁気刺激)により脳活動を操作し、知覚状態と脳活動状態との因果関係を検証します。特に脳の大域的な振動同期活動に注目し、これをリアルタイムに操作制御し、脳の振動同期活動と知覚状態の因果関係を操作的に検証する革新的なシステム神経科学的手法として開発し、その有効性を実証します。

2.ヒトの脳内での確率共振(共鳴)現象についての研究

 確率共振(Stochastic Resonance (SR))とは、非線形な系で微弱な信号を検出する能力が適度なノイズ入力によって上昇する現象です。これまで、さまざまな物理システム、生物神経システムで確率共振現象の存在が確認されてきました。しかし実際にヒトの脳での知覚等の高次な機能に関して確率共振現象がおきているかどうかについての研究は最近はじまったばかりです。私は心理物理、脳神経科学、統計物理学的手法を用いて、ヒトの脳内の知覚等の高次機能で確率共振現象がおきていることを確認するための研究を行っています。
 ノイズ、信号を別々の受容器から入力することによって、受容器レベルではなく脳内で確率共振現象がおきていることを示します。このような実験デザインを double-receptor designといいます(視覚 SR (片目信号、対眼ノイズ入力)、聴覚 SR (片耳信号、対耳入力)クロスモーダル SR)。末梢受容器ではなく脳内で信号とノイズが相互作用することからこれらの実験デザインでは脳内での確率共振の証拠を示すことができます。
 理論的には脳のモデルとなりうる非線形結合振動子系でノイズ入力により多数の非線形振動子の活動パターンが同期化することがよく知られています。しかし実験で、脳活動の大域的な同期度が実際にノイズによって上昇し、さらにそれが脳機能の向上につながるかどうかどうかについて明らかにした研究はこれまでありません。そこで私の研究では
脳波を用いて測定した脳の活動がノイズにより同期度が向上、さらに脳機能が向上することを示します。大域的な脳活動同期現象は知覚等の脳機能において必要となる脳の異なる領野間の情報交換、情報統合に重要な役割を果たすことが知られているので、ノイズがその同期度の向上を通して知覚形成に関して重要な役割を果たしている可能性があります。
 また、微弱視覚信号検出のような比較的単純な機能のみではなく、脳内で処理機構が空間的に広く分散している視覚的注意、両眼視野闘争などの高次脳機能、知覚機能で確率共振現象がおきていることも示します。

 脳の内外にはさまざまなノイズ源があります。これまでの脳の確率共振の研究は確率共振が外部からのノイズ入力によっておきうるということと、脳内の背景活動様のノイズが役立っているということは必ずしも同義ではありません。そこで外部ノイズ入力がない場合の自発的な脳内のノイズ(内部ノイズ)を定量化して、知覚パフォーマンスとの相関を調べて、知覚機能の向上に脳内ノイズが関連しているかを探っています。
 これらの研究からヒトの脳がノイズ、ゆらぎのある環境下、あるいは脳内にもノイズ様の活動がある状態でいかにうまく機能するようにデザインされているかについて理解をすることを目的としています。

3.多義図形知覚と脳波大域的位相同期現象

 多義図形とはネッカーキューブ(Necker cube)に代表されるように複数の可能な解釈がある図形のことです。下記のネッカーキューブでは解釈1と解釈2の二つの立方体の解釈の間を交互に数秒おきに遷移します。このように外部刺激入力は一定なのに脳内で自発的に解釈、視覚意識状態が入れ替わるため、ヒトの知覚、意識とは何かということを研究するためのよいモデルとなります。知覚が成立するときに脳の領野間では情報交換、情報統合がおきていると考えられ、脳活動の領野間の同期現象がこのプロセスに関連していることが推測されています。そこで特に脳波のシータ波(4−8Hz)、ガンマ波(30−70Hz)の領野間の大域的な位相同期現象がネッカーキューブの知覚時にどういうタイミングで出現するかを解析して、脳と知覚のメカニズムの計算論的な理解を目指します。