大学入学後の積極的な関わりが,進路選択の正否を左右する。
私は「心理統計学」という分野を専攻している。皆さんにはおそらく馴染みのない分野だろう。私自身,大学に入るまで,いや実際には大学の3年生になるまで,そういう学問分野が存在することすら知らなかった。ただ漠然と人の性格などに関心があって心理系の学科を選んだのだが,進学後に,心理学の研究に統計学が使われることを知り,そして多くの友人が統計的な内容に苦手意識をもつ中で,自分自身は結構理解できる感じがしたし,楽しさも感じた。また,心理統計学を担当している先生にも魅力を感じた。そうこうしているうちに,この分野に限っては友人達の中で,“ちょっとできる奴”という感じになり,自然にこの分野を専攻することになっていった。
私の研究仲間は,医学部,経済学部,工学部,教育学部など様々な学部に所属して,それぞれの学部での教育内容と関連づけながら統計学の研究をしている。この人達の中には,大学入学の時点で統計学を専攻しようと考えていた人はおそらく一人もいないと思う。経済や工学の勉強を進める中で統計学との“出会い”があり,今ではあたかも天職であったかのようにその領域に“はまって”いる。
学部や学科を決めかねている受験生に,上記のことをふまえて一言。それぞれの学部学科が提供してくれる内容は,自分たちの想像をはるかに超えて,豊かで幅広いものである。そこで与えられる内容に積極的に関わってみることで,自分には何ができるのか,自分は何に向いているのかが,自然に見えてくるはずである。積極的に関わってみなければ何も見えてはこない。大学でのさまざまな経験を通して,卒業する時点で自分の進むべき道が見えてくれば,入学時点での進路選択は誤りでなかったことになる。進路選択を入学時点の課題だと限定せず,長期的な視野のもとで考えてほしい。