【相対評価と絶対評価】
norm-referenced and criterion-referenced evaluation
学力テスト等の得点を解釈するとき,集団基準を拠り所とするのか,それとも達成基準を拠り所とするのかによって,相対評価と絶対評価が区別される。
相対評価は,同じ学校の同学年の生徒全体などの集団を基準にし,その基準集団での得点分布に照らして個々の生徒の得点を解釈・評価する方法である。具体的には,基準集団での平均が50になるように得点換算した偏差値や,正規分布とよばれる理論的な分布を想定して,1〜5の5段階にそれぞれ7%,24%,38%,24%,7%の生徒を割り振る5段階相対評価,あるいは基準集団の中で得点の低いほうから何%に当たるかというパーセンタイル順位などによって表現される(「偏差値」および「パーセンタイル順位」の項を参照)。
相対評価は,どの集団を基準とするかによって評価が大きく異なる可能性があり,基準集団がどのようなレベルの集団であるかという知識なしには,評価結果が意味をもたない。相対評価は,他者との比較による相対的な評価であると同時に,評価結果が基準集団の選択に依存するという意味でも,相対的な評価なのである。相対評価の教育的な機能については,個々の生徒にどのような指導をすればよいかという具体的指針が得られないという点が批判されてきた。さらに,学習によって知識が増え理解が深まっても,集団内での相対的位置が変化しなければ,そうした進歩が評価に反映されないため,学習への動機付けの面でも問題があること,そして学習自体よりも競争に目を向けさせる評価法であるとの批判もなされてきた。
絶対評価という考え方は,相対評価のこうした問題点の克服を目指して提唱されてきたものである。たとえば,小学校算数で「掛け算の意味がわかり計算ができること」という教育目標があるとき,何点以上であればその目標を達成したとみなすかという基準(達成基準,到達基準,または分割点という)を設定し,それに基づいて「達成」「未達成」の判断を行う評価法である。こうした評価法は到達度評価,あるいは目標準拠評価ともよばれる。これなら任意に選ばれた基準集団に依存することなく,指導のための具体的指針をも与え,また各生徒の進歩を適切に評価することも可能になるというのである。
さて,絶対評価が有効に機能するためには,何点以上であれば「達成」とみなすかという基準作りの作業が重要になってくる。もし,詳細な観察などを通して「達成」か「未達成」かが明らかになっている生徒のサンプルが利用できるのであれば,そのサンプルにテストを実施してみることによって,次のような表を作成することができる。このとき,分割点を何点とするかによって,表中の正しい判断の比率や2種類の誤った判断の比率が変化することになる。そこで,2種類の誤った判断の重大さを勘案しながら最適と思われる分割点を決めることができる。
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「達成」と判断 |
「未達成」と判断 |
真の達成者 |
正しい判断 |
誤った判断(false negative) |
真の未達成者 |
誤った判断(false positive) |
正しい判断 |
しかし,教育目標にはさまざまなものがあり,たとえば「詩の鑑賞能力を高める」,「歴史を学ぶことの大切さを知る」といった抽象的な目標について,上記の方法を適用するために真の達成者・未達成者を選ぶのは困難である。また,掛け算の計算の例のような,比較的具体的で理解しやすい教育目標であっても,基準設定は必ずしも容易ではなく,現実には主観的・恣意的に基準が決められているケースも少なくない。
このように絶対評価も,その言葉が与える印象ほどには絶対的なものではない。一方,これまで批判されることの多かった相対評価は,生徒自身が現実的な自己認識を形成する上で有用であり,特に進路指導においては必要である。目的に応じて柔軟に,両者の利点を生かした評価を行うことが望まれる。
◆ 絶対評価の具体例
絶対評価は,簡単に言えば,「この点数なら何ができて何ができないか」を記述し,伝える評価である。そうした評価の実際の例として,英語によるコミュニケーション能力を評価する代表的なテストであるTOEICの得点評価が挙げられる。
TOEICでは,相対評価の結果に加え,得点範囲を5つのレベルに分割して,各レベルが,現実のコミュニケーション場面でのどの程度の能力に相当するかという情報を与えている。たとえば,220点〜470点の範囲のレベルDの者は「ゆっくり話してもらうか,繰り返しや言い換えをしてもらえば,簡単な会話は理解できる。身近な話題であれば応答も可能である。語彙・文法・構文ともに不十分なところは多いが,相手がNon-Nativeに特別な配慮をしてくれる場合には,意思疎通をはかることができる」という具合である。もちろん,こうした記述が可能になるためには,幅広いサンプルに対してテストを実施するとともに,そのサンプルの人達の現実場面でのコミュニケーション能力を別途調べ,その両者の相関関係を検討することが必要である。 [南風原朝和]
《参考資料》
東洋『子どもの能力と教育評価(第2版)』東京大学出版会,2001/子安増生・田中俊也・南風原朝和・伊東裕司『教育心理学・新版』有斐閣,2003